2015/06/01(月) - 04:54
最終ステージはトマス・ラボウ(アタックチームガスト)が2秒差で逃げ切り優勝。同一集団でフィニッシュのベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)が個人総合を守りきり、チーム結成10年目にして初のUCIステージレース個人総合優勝を勝ち取った。
上位陣が秒差の争いへ
5月31日(日)のツール・ド・熊野最終日第3ステージは和歌山県太地町が舞台。1周10kmの中にあらゆる状況が詰め込まれた名コースでは、過去数々の名勝負が繰り広げられてきた。実業団の3デイズのときには逆転劇が多く生まれ、UCIレースになってからはそのまま守りきることが多くなった。レースは10周する100km。
前日までの総合成績は、トップのベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)にプラス8秒で2位のイリヤ・ゴロドニチェフ(RTSサンティックレーシングチーム)が、プラス10秒でダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)が。そしてUCIポイントが与えられる8位付近には1秒単位で数人の選手がひしめく。最終ステージはこれら順位を巡る熾烈な戦いもある。
115名で始まった今年のツール・ド・熊野も、4日目の第3ステージは85名で出走。1周目から各チームによるアタックが開始される。これにことごとく対応するのはマトリックスパワータグのメンバー。もともと初日から5名でスタートした同チームが常に集団の先頭にいる。同チームが警戒するのは秒差の2位3位の選手がボーナスタイムを得ることと、逃げ切られることだ。そのひとつ、2周終了時の中間スプリントは、ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)が先頭で3秒獲得し優位に進める。
マトリックスパワータグと他チームとの攻防
常に数人が逃げるがこれをマトリックスパワータグが潰す展開が続く。動きが出たのは4周目。トマス・ラボウ(アタックチームガスト)、新人賞リーダーのアイマン・カヤディ(ペガサスコンチネンタルサイクリングチーム)、吉岡直哉(那須ブラーゼン)、湊諒(チーム右京)の4人が先行、やがて湊が下がり先頭は3人に。この中ではカヤディがプラデスから総合で+4分24秒であり、総合上位争いから遠いため逃げは許容される。
その後もメイン集団からはアタックが断続的にかかるが、総合上位を脅かす選手はマトリックスパワータグが追い、上位からは遠い選手は容認され、数人が飛び出すも集団に戻る展開が続く。先頭3人とメイン集団との差は2分まで広がる。先頭も7周目にはカヤディが、8周目には吉岡が下がりラボウ単独となる。この間もメイン集団ではブリヂストンアンカーを中心とするアタックがかかる。マトリックスパワータグも安原大貴と吉田隼人がメイン集団から脱落しホセ・ビセンテとアイラン・フェルナンデスで対応する。
トマス・ラボウ(アタックチームガスト)が2秒差で逃げ切り
先頭は総合で+8分40秒のラボウ単独となっても1分半の差があり逃げ切りの可能性も出てきたため、8周目に入ってから先頭はアヴァンティレーシングチームが引き始める。ポイントリーダーのニール・ヴァンデルプローグのスプリントによるステージ優勝狙いの動きだ。ほか各チームもまとまりはじめ、集団ゴールに備えた布陣に。アヴァンティは3人で集団の先頭を引き、逃げ続けるラボウを追う。
最終周回に入ってもラボウの走りは衰えずその差は1分10秒。約14分での周回ラップでこの差は大きい。アヴァンティは強力に追走しその差は次第に縮まる。最終ストレートでも差はあり、ラボウは逃げ切ってステージ優勝。メイン集団は2秒差でヴァンデルプローグを先頭にフィニッシュ。鈴木龍(那須ブラーゼン)が3位に入りUCIポイントを獲得。プラデスは両手を挙げながらフィニッシュラインを通過、総合優勝を決めた。
難局を乗り切ったマトリックスパワータグ
マトリックスパワータグは当初から5人出走という数的ハンディを跳ね返し、特にホセ・ビセンテの活躍で難局を乗り切った。「いまステージレースを走れるのは5人しかいなかった」チームは当初から1人少ない5人でのエントリー。「リーダーになった場合厳しい場面になることは覚悟していた」と同チームの安原昌弘監督。
エースはホセ・ビセンテまたはプラデスとして大会に臨み、レース展開に応じてそれを決めることとした。前日の第2ステージの展開で、プラデスがエースに、ホセ・ビセンテがアシストに回ることになった。このアシストとしてのホセ・ビセンテの活躍が非常に大きかったことが勝因の大きな割合を占める。同チーム結成10年目にして初めてUCIステージレースで個人総合優勝を成し遂げた。
マトリックスにとって6人目は当初から和田力だった。しかし3月に急逝してからは5人で戦う覚悟を安原監督は決めていた。先頭を長時間引いたりエースを引き上げたり、あるいはステージレース後半でも体力が落ちないなど指示通りに動ける和田の存在は大きかった。だがプラデスが「ハードなレースだったが僕たちは和田と一緒に走った」と語ったようにチーム員の心の支えになったことは確か。大会終了後に表彰台で和田の自転車にイエロージャージを被せたプラデス。そしてチームはこの日、和歌山県串本町の和田の墓前に勝利を報告した。
結果
第3ステージ太地半島周回コース 100.0km
1位 トマス・ラボウ(アタックチームガスト)2時間26分25秒
2位 ニール・ヴァンデルプローグ(アヴァンティレーシングチーム)+02秒
3位 鈴木龍(那須ブラーゼン)
4位 アンソニー・ジャコッポ(アヴァンティレーシングチーム)
5位 野中竜馬(キナンサイクリングチーム)
6位 入部正太朗(シマノレーシング)
7位 平井栄一(チーム右京)
8位 ヤン・インホン(アタックチームガスト)
9位 イリヤ・ゴロドニチェフ(RTSサンティックレーシングチーム)
10位 中根英登(愛三工業レーシングチーム)
個人総合順位
1位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)7時間49分20秒
2位 イリヤ・ゴロドニチェフ(RTSサンティックレーシングチーム)+08秒
3位 ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+10秒
4位 中根英登(愛三工業レーシングチーム)+31秒
5位 ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)+1分13秒
6位 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)+1分16秒
7位 初山翔(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+1分17秒
8位 ジャイ・クロフォード(キナンサイクリングチーム)+1分17秒
9位 トマ・ルバ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+1分19秒
10位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)+1分22秒
個人総合新人賞
1位 城田大和(宇都宮ブリッツェン)
個人総合ポイント賞
1位 ニール・ヴァンデルプローグ(アヴァンティレーシングチーム)55点
2位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)33点
3位 トマス・ラボウ(アタックチームガスト)30点
個人総合山岳賞
1位 中根英登(愛三工業レーシングチーム)18点
2位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)14点
3位 ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)8点
チーム総合時間賞
1位 ブリヂストンアンカーサイクリングチーム 23時間30分49秒
2位 愛三工業レーシングチーム +17秒
3位 チーム右京 +4分51秒
photo&text:Hideaki TAKAGI
上位陣が秒差の争いへ
5月31日(日)のツール・ド・熊野最終日第3ステージは和歌山県太地町が舞台。1周10kmの中にあらゆる状況が詰め込まれた名コースでは、過去数々の名勝負が繰り広げられてきた。実業団の3デイズのときには逆転劇が多く生まれ、UCIレースになってからはそのまま守りきることが多くなった。レースは10周する100km。
前日までの総合成績は、トップのベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)にプラス8秒で2位のイリヤ・ゴロドニチェフ(RTSサンティックレーシングチーム)が、プラス10秒でダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)が。そしてUCIポイントが与えられる8位付近には1秒単位で数人の選手がひしめく。最終ステージはこれら順位を巡る熾烈な戦いもある。
115名で始まった今年のツール・ド・熊野も、4日目の第3ステージは85名で出走。1周目から各チームによるアタックが開始される。これにことごとく対応するのはマトリックスパワータグのメンバー。もともと初日から5名でスタートした同チームが常に集団の先頭にいる。同チームが警戒するのは秒差の2位3位の選手がボーナスタイムを得ることと、逃げ切られることだ。そのひとつ、2周終了時の中間スプリントは、ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)が先頭で3秒獲得し優位に進める。
マトリックスパワータグと他チームとの攻防
常に数人が逃げるがこれをマトリックスパワータグが潰す展開が続く。動きが出たのは4周目。トマス・ラボウ(アタックチームガスト)、新人賞リーダーのアイマン・カヤディ(ペガサスコンチネンタルサイクリングチーム)、吉岡直哉(那須ブラーゼン)、湊諒(チーム右京)の4人が先行、やがて湊が下がり先頭は3人に。この中ではカヤディがプラデスから総合で+4分24秒であり、総合上位争いから遠いため逃げは許容される。
その後もメイン集団からはアタックが断続的にかかるが、総合上位を脅かす選手はマトリックスパワータグが追い、上位からは遠い選手は容認され、数人が飛び出すも集団に戻る展開が続く。先頭3人とメイン集団との差は2分まで広がる。先頭も7周目にはカヤディが、8周目には吉岡が下がりラボウ単独となる。この間もメイン集団ではブリヂストンアンカーを中心とするアタックがかかる。マトリックスパワータグも安原大貴と吉田隼人がメイン集団から脱落しホセ・ビセンテとアイラン・フェルナンデスで対応する。
トマス・ラボウ(アタックチームガスト)が2秒差で逃げ切り
先頭は総合で+8分40秒のラボウ単独となっても1分半の差があり逃げ切りの可能性も出てきたため、8周目に入ってから先頭はアヴァンティレーシングチームが引き始める。ポイントリーダーのニール・ヴァンデルプローグのスプリントによるステージ優勝狙いの動きだ。ほか各チームもまとまりはじめ、集団ゴールに備えた布陣に。アヴァンティは3人で集団の先頭を引き、逃げ続けるラボウを追う。
最終周回に入ってもラボウの走りは衰えずその差は1分10秒。約14分での周回ラップでこの差は大きい。アヴァンティは強力に追走しその差は次第に縮まる。最終ストレートでも差はあり、ラボウは逃げ切ってステージ優勝。メイン集団は2秒差でヴァンデルプローグを先頭にフィニッシュ。鈴木龍(那須ブラーゼン)が3位に入りUCIポイントを獲得。プラデスは両手を挙げながらフィニッシュラインを通過、総合優勝を決めた。
難局を乗り切ったマトリックスパワータグ
マトリックスパワータグは当初から5人出走という数的ハンディを跳ね返し、特にホセ・ビセンテの活躍で難局を乗り切った。「いまステージレースを走れるのは5人しかいなかった」チームは当初から1人少ない5人でのエントリー。「リーダーになった場合厳しい場面になることは覚悟していた」と同チームの安原昌弘監督。
エースはホセ・ビセンテまたはプラデスとして大会に臨み、レース展開に応じてそれを決めることとした。前日の第2ステージの展開で、プラデスがエースに、ホセ・ビセンテがアシストに回ることになった。このアシストとしてのホセ・ビセンテの活躍が非常に大きかったことが勝因の大きな割合を占める。同チーム結成10年目にして初めてUCIステージレースで個人総合優勝を成し遂げた。
マトリックスにとって6人目は当初から和田力だった。しかし3月に急逝してからは5人で戦う覚悟を安原監督は決めていた。先頭を長時間引いたりエースを引き上げたり、あるいはステージレース後半でも体力が落ちないなど指示通りに動ける和田の存在は大きかった。だがプラデスが「ハードなレースだったが僕たちは和田と一緒に走った」と語ったようにチーム員の心の支えになったことは確か。大会終了後に表彰台で和田の自転車にイエロージャージを被せたプラデス。そしてチームはこの日、和歌山県串本町の和田の墓前に勝利を報告した。
結果
第3ステージ太地半島周回コース 100.0km
1位 トマス・ラボウ(アタックチームガスト)2時間26分25秒
2位 ニール・ヴァンデルプローグ(アヴァンティレーシングチーム)+02秒
3位 鈴木龍(那須ブラーゼン)
4位 アンソニー・ジャコッポ(アヴァンティレーシングチーム)
5位 野中竜馬(キナンサイクリングチーム)
6位 入部正太朗(シマノレーシング)
7位 平井栄一(チーム右京)
8位 ヤン・インホン(アタックチームガスト)
9位 イリヤ・ゴロドニチェフ(RTSサンティックレーシングチーム)
10位 中根英登(愛三工業レーシングチーム)
個人総合順位
1位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)7時間49分20秒
2位 イリヤ・ゴロドニチェフ(RTSサンティックレーシングチーム)+08秒
3位 ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+10秒
4位 中根英登(愛三工業レーシングチーム)+31秒
5位 ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)+1分13秒
6位 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)+1分16秒
7位 初山翔(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+1分17秒
8位 ジャイ・クロフォード(キナンサイクリングチーム)+1分17秒
9位 トマ・ルバ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+1分19秒
10位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)+1分22秒
個人総合新人賞
1位 城田大和(宇都宮ブリッツェン)
個人総合ポイント賞
1位 ニール・ヴァンデルプローグ(アヴァンティレーシングチーム)55点
2位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)33点
3位 トマス・ラボウ(アタックチームガスト)30点
個人総合山岳賞
1位 中根英登(愛三工業レーシングチーム)18点
2位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)14点
3位 ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)8点
チーム総合時間賞
1位 ブリヂストンアンカーサイクリングチーム 23時間30分49秒
2位 愛三工業レーシングチーム +17秒
3位 チーム右京 +4分51秒
photo&text:Hideaki TAKAGI
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