2015/05/14(木) - 14:46
アベトーネは標高1386mの峠に位置する小さな町の名前。新緑の樹々に覆われたスキー場を目指して、190名のプロサイクリストと数千のアマチュアサイクリストが登りに挑んだ。大会最初の山岳バトルが勃発したジロ・デ・イタリア第5ステージの模様をお伝えします。
第5ステージは別名「タッパ・バルタリ(バルタリのステージ)」。1947年と1948年にアベトーネを先頭通過したトスカーナ州出身のジーノ・バルタリに捧げるステージだ。バルタリは1936年、1937年、1946年にジロ総合優勝を果たしている。
大会最初の山頂フィニッシュを迎えた2級山岳アベトーネは、トスカーナ州とエミリアロマーニャ州を結ぶ峠の名前。コースにもなったSS12号線はピサからアベトーネを越えてエミリアロマーニャ州に入り、ロンバルディア平原を横切り、ドロミティ山塊を突っ切ってオーストリア国境のブレンエロ峠まで続いている。
峠の開通は1928年で、アベトーネが峠のコミュニティーとして登録されたのが1936年。以降、何度もジロが通過し、これまで山頂フィニッシュとして3回登場している。スキー場としての歴史は古く、アルプスまで行かなくともスキーを楽しめるとあって冬場の人気スポットらしい。
平日にもかかわらず、峠の頂上はトスカーナ州とエミリアロマーニャ州の両サイドから登ってきたサイクリストで溢れていた。スキーのオフシーズンだが、バイクツーリングの定番峠であるため頂上ではカフェやレストランが営業中。みな思い思いの観戦場所を探し、シューズを脱ぎ、ビールやら何やらを飲みながら賑やかにジロを待つ。
ジロに登場する他の峠道と比べて沿道に広葉樹が多いのが特徴で、みずみずしい葉っぱに覆われたコースは昼でも薄暗く、ひんやりする。
下界は30度近い暑さにもかかわらず頂上近くは気温20度を下回る快適なコンディション。沿道に目をこらすと雪の塊がまだ静かに残っていた。
1週目から獲得標高差2500〜2900mほどの中級山岳ステージが連続している今年のジロ。逆に前日グルペットから遅れてフィニッシュした石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ)は「昨日は下りでグルペットから離れてしまいましたが、今日は最後の登りの麓まで集団で走れば大丈夫です」と、下りではなく登りでフィニッシュすることに少し安心している様子。
実際に石橋は一番のボリュームゾーンである19分34秒遅れの50名ほどのグルペットで2級山岳アベトーネに到着。「今までよりは単純なコースだったので助かりました」とコメントして最初の山頂フィニッシュを終えている。フィニッシュから3km下に位置するチームパーキングまで下山する際の笑顔が全てを物語っていた。
連日逃げに闘志を燃やしている別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「今日は集団が逃げを行かす雰囲気だったので逃げに乗りたかった」と語るが、マークしていたシルヴァン・シャヴァネル(フランス、IAMサイクリング)がアタックした時にフロントがチェーン落ち。一旦止まってチェーンをはめて集団に復帰した時にはすでにシャヴァネルの逃げは決まっていた。
最後は「無理せずにリズムを刻んで登った」と言いながらも、半分よりもトップから10分33秒遅れでフィニッシュしている。翌日の第6ステージは再びジャコモ・ニッツォロ(イタリア)のスプリントをサポートするため逃げはお預けだ。
スタートでもフィニッシュでも、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)が紹介される時にはほぼ必ず「ピストレーロ」という言葉が付け加えられる。イタリア語で「ピストルマン」を意味する言葉で、アルベルト・ピストレーロ・コンタドールという感じに。もはやミドルネームの域に達している。
コンタドールは2011年大会以来のマリアローザ着用だが、ドーピング違反で同年の成績が剥奪されているため、記録上は2008年大会以来の着用となる。グランツールでのリーダージャージ着用は総合優勝を飾った2014年ブエルタ・ア・エスパーニャ以来8ヶ月ぶり。
早すぎるマリアローザ着用を心配する声もあるが、本人は至って冷静だ。翌日からは追われる立場になるが、今の時点ではマリアローザを手放しても良いとコメントしている。仮に「明日からミラノまでずっとマリアローザを着たいと思います」とコメントしたらティンコフ・サクソのアシストたちは潰れてしまう。
「ここまで最も印象的だったライバルは?」という問いにコンタドールは個人名を特定せず「アスタナ」とだけ答えた。現に2級山岳アベトーネでチームとして機能していたのはアスタナであり、ティンコフ・サクソとチームスカイはアシスト体制に少し不安を残す結果に。
いずれにしてもコンタドール、アル、ポートの三つ巴であることに変わりはない。コンタドールは「アルはピュアクライマーであり、山岳ステージで絶対に逃がしてはいけない存在。タイムトライアルがアドバンテージのポートも好調だから決して簡単な勝負にはならない」とライバルを警戒する。
ティンコフ・サクソの懸念材料は、1週目の前半からアシストの力をフル活用したことと、第5ステージ終了後にユヴェントスvsレアルマドリーのチャンピオンズリーグ準決勝が行われたこと。12年ぶりにユヴェントスが決勝に進んだことでユーヴェファンのチームメイト(5月14日が誕生日のトザットら)は眠れない夜を過ごしたに違いない。そしてマドリード出身でレアルマドリーのファンであるコンタドールとの間に軋轢が生じないのかと余計な心配をしてしまう。
text &photo:Kei Tsuji in Montecatini Terme, Italy
第5ステージは別名「タッパ・バルタリ(バルタリのステージ)」。1947年と1948年にアベトーネを先頭通過したトスカーナ州出身のジーノ・バルタリに捧げるステージだ。バルタリは1936年、1937年、1946年にジロ総合優勝を果たしている。
大会最初の山頂フィニッシュを迎えた2級山岳アベトーネは、トスカーナ州とエミリアロマーニャ州を結ぶ峠の名前。コースにもなったSS12号線はピサからアベトーネを越えてエミリアロマーニャ州に入り、ロンバルディア平原を横切り、ドロミティ山塊を突っ切ってオーストリア国境のブレンエロ峠まで続いている。
峠の開通は1928年で、アベトーネが峠のコミュニティーとして登録されたのが1936年。以降、何度もジロが通過し、これまで山頂フィニッシュとして3回登場している。スキー場としての歴史は古く、アルプスまで行かなくともスキーを楽しめるとあって冬場の人気スポットらしい。
平日にもかかわらず、峠の頂上はトスカーナ州とエミリアロマーニャ州の両サイドから登ってきたサイクリストで溢れていた。スキーのオフシーズンだが、バイクツーリングの定番峠であるため頂上ではカフェやレストランが営業中。みな思い思いの観戦場所を探し、シューズを脱ぎ、ビールやら何やらを飲みながら賑やかにジロを待つ。
ジロに登場する他の峠道と比べて沿道に広葉樹が多いのが特徴で、みずみずしい葉っぱに覆われたコースは昼でも薄暗く、ひんやりする。
下界は30度近い暑さにもかかわらず頂上近くは気温20度を下回る快適なコンディション。沿道に目をこらすと雪の塊がまだ静かに残っていた。
1週目から獲得標高差2500〜2900mほどの中級山岳ステージが連続している今年のジロ。逆に前日グルペットから遅れてフィニッシュした石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ)は「昨日は下りでグルペットから離れてしまいましたが、今日は最後の登りの麓まで集団で走れば大丈夫です」と、下りではなく登りでフィニッシュすることに少し安心している様子。
実際に石橋は一番のボリュームゾーンである19分34秒遅れの50名ほどのグルペットで2級山岳アベトーネに到着。「今までよりは単純なコースだったので助かりました」とコメントして最初の山頂フィニッシュを終えている。フィニッシュから3km下に位置するチームパーキングまで下山する際の笑顔が全てを物語っていた。
連日逃げに闘志を燃やしている別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「今日は集団が逃げを行かす雰囲気だったので逃げに乗りたかった」と語るが、マークしていたシルヴァン・シャヴァネル(フランス、IAMサイクリング)がアタックした時にフロントがチェーン落ち。一旦止まってチェーンをはめて集団に復帰した時にはすでにシャヴァネルの逃げは決まっていた。
最後は「無理せずにリズムを刻んで登った」と言いながらも、半分よりもトップから10分33秒遅れでフィニッシュしている。翌日の第6ステージは再びジャコモ・ニッツォロ(イタリア)のスプリントをサポートするため逃げはお預けだ。
スタートでもフィニッシュでも、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)が紹介される時にはほぼ必ず「ピストレーロ」という言葉が付け加えられる。イタリア語で「ピストルマン」を意味する言葉で、アルベルト・ピストレーロ・コンタドールという感じに。もはやミドルネームの域に達している。
コンタドールは2011年大会以来のマリアローザ着用だが、ドーピング違反で同年の成績が剥奪されているため、記録上は2008年大会以来の着用となる。グランツールでのリーダージャージ着用は総合優勝を飾った2014年ブエルタ・ア・エスパーニャ以来8ヶ月ぶり。
早すぎるマリアローザ着用を心配する声もあるが、本人は至って冷静だ。翌日からは追われる立場になるが、今の時点ではマリアローザを手放しても良いとコメントしている。仮に「明日からミラノまでずっとマリアローザを着たいと思います」とコメントしたらティンコフ・サクソのアシストたちは潰れてしまう。
「ここまで最も印象的だったライバルは?」という問いにコンタドールは個人名を特定せず「アスタナ」とだけ答えた。現に2級山岳アベトーネでチームとして機能していたのはアスタナであり、ティンコフ・サクソとチームスカイはアシスト体制に少し不安を残す結果に。
いずれにしてもコンタドール、アル、ポートの三つ巴であることに変わりはない。コンタドールは「アルはピュアクライマーであり、山岳ステージで絶対に逃がしてはいけない存在。タイムトライアルがアドバンテージのポートも好調だから決して簡単な勝負にはならない」とライバルを警戒する。
ティンコフ・サクソの懸念材料は、1週目の前半からアシストの力をフル活用したことと、第5ステージ終了後にユヴェントスvsレアルマドリーのチャンピオンズリーグ準決勝が行われたこと。12年ぶりにユヴェントスが決勝に進んだことでユーヴェファンのチームメイト(5月14日が誕生日のトザットら)は眠れない夜を過ごしたに違いない。そしてマドリード出身でレアルマドリーのファンであるコンタドールとの間に軋轢が生じないのかと余計な心配をしてしまう。
text &photo:Kei Tsuji in Montecatini Terme, Italy
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