冷たい雨、テクニカルなコース、そして度重なる落車。ブエルタ・ア・エスパーニャ第4ステージは、厳しいワンディクラシックの様相を呈した。ラスト2.5kmの大落車で集団は6名に絞られ、アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)が悠々と勝利。コロンビアはステージ2連勝だ。

雨のアップダウンコースで落車が多発

クラシックの聖地リエージュにゴールする第4ステージ。コースは今大会最長の225kmで、アムステル・ゴールドレース名物のカウベルグや、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ名物サンニコラが登場し、クラシックレースを彷彿とさせる厳しい闘いが繰り広げられた。

オランダらしい田園風景の中を進むオランダらしい田園風景の中を進む photo:Unipublic
アタック合戦の末にメイン集団から飛び出したのは4名。ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)、セルゲイ・ラグティン(ウズベキスタン、ヴァカンソレイユ)、ハビエル・ラミレス(スペイン、アンダルシア)、ドミニク・ロエルス(ドイツ、ミルラム)。タイム差は今大会ここまでで最大の14分まで広がった。

カウベルグを通過するメイン集団カウベルグを通過するメイン集団 photo:Cor Vosカテゴリー4級に設定されたカウベルグは、2日連続で逃げに乗ったボームが先頭通過。ボームはこの日3つの4級山岳を先頭通過し、チームメイトのトム・リーザー(オランダ)から山岳賞ジャージを受け継ぐことに成功している。

気温20度以下の冷たい雨が降る中、選手たちはオランダからベルギーへ。ただでさえ滑り易い路面は、一日中降り続いた雨によって凶器と化し、多数の落車を誘発させた。

2日連続で逃げグループを率いるラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)2日連続で逃げグループを率いるラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) photo:Unipublicやがてメイン集団では、スプリント勝利を狙うガーミン、クイックステップ、リクイガスがペースアップを図り、先頭グループのリードを食いつぶして行く。

タイム差が1分まで縮まったラスト30kmで先頭はラミレスとロエルスに絞られ、カウンターアタックで飛び出したリエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ)が先頭2名に合流。しかし大集団の追い上げは振り切れず、ラスト15kmで全ての逃げは吸収された。

メイン集団をコントロールするガーミン、サクソバンク、リクイガス、クイックステップメイン集団をコントロールするガーミン、サクソバンク、リクイガス、クイックステップ photo:Unipublicこの日最後の上りであるサンニコラでは、キム・キルシェン(ルクセンブルク、チームコロンビア・HTC)やフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)らがアタック。しかしいずれも決定力を欠き、ラスト11kmの下りでエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ランプレ)がアタックを成功させる。

10秒ほどのリードを得たガスパロットだったが、スプリンターを揃える大集団には太刀打ちできずに敢え無く沈没。ラスト4kmでガスパロットを飲み込んだ大集団は、濡れた危険なコースを猛スピードで突き進んだ。


ラスト2.5kmで大落車が発生

諦めずに逃げ続けたドミニク・ロエルス(ドイツ、ミルラム)とハビエル・ラミレス(スペイン、アンダルシア)諦めずに逃げ続けたドミニク・ロエルス(ドイツ、ミルラム)とハビエル・ラミレス(スペイン、アンダルシア) photo:Unipublicスプリンターチームがポジションを争っていたラスト2.5km、メイン集団の前方の選手がロータリーで転倒し、数十名が避けきれずに突っ込んだ。その中にはマイヨオロを着るファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)を始め、多数の有力選手が含まれていた。

次々と選手が地面に投げ出される地獄絵図。その前方では、メンバーを3名を残したチームコロンビア・HTC(グライペル、グラブシュ、シーベルグ)とクイックステップ(ウェイラント、ヴェーロ、トザット)が先行。集団先頭に位置していたことで落車を免れた6名でラスト1kmに突入した。

サンニコラで動きを見せるキム・キルシェン(ルクセンブルク、チームコロンビア・HTC)やフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)サンニコラで動きを見せるキム・キルシェン(ルクセンブルク、チームコロンビア・HTC)やフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット) photo:Unipublicコロンビアとクイックステップの争いは、最後まで3名を残したコロンビアに軍配が上がった。最後はグライペルがワウテル・ウェイラント(ベルギー、クイックステップ)を下し、チームメイトに見守られながら悠々とフィニッシュ。コロンビアは1位、3位、4位を独占した。

「誰も怪我を負わなかったことが何よりも大切だ。明日の休息日をフルに使ってカラダを休めたい。幸いなことに(落車が発生したとき)いいポジションにいた。そこからチームメイトが前を引き続けてくれたおかげで勝てたんだ」と語るのは、チームにステージ2連勝をもたらしたグライペル。昨年のジロ・デ・イタリアでステージ優勝を飾っており、グランツールでは2勝目だ。

チームメイトに見守られながら両手を広げてゴールするアンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)チームメイトに見守られながら両手を広げてゴールするアンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC) photo:Unipublicグライペルはこれが今シーズン16勝目で、昨年の15勝をすでに上回った。「チームコロンビア・HTCのような強力なサポートを得ると、モチヴェーションが上がる。チームメイトのおかげでこんなに多くの勝利を掴めたんだ」。チームコロンビア・HTCは今シーズン74勝目。勝利数では他を圧倒している。

ラスト2.5km地点で発生した大落車に巻き込まれた選手たちは、救済措置によりステージ優勝者と同タイム扱いに。総合トップ10の選手がステージ優勝に絡めなかったため、カンチェラーラはこの日もマイヨオロを守った。

暗い表情でゴールするポイント賞ジャージのトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)暗い表情でゴールするポイント賞ジャージのトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) photo:Cor Vosしかしサクソバンクにはバッドニュースが一つ。レース中盤に沿道のトラックに衝突したヤコブ・フグルサング(デンマーク)が、ふくらはぎに深い傷を負った。シュレク兄弟に代わって総合成績を狙う予定だったフグルサングは「スポークでふくらはぎを切ってしまった。傷は深く、脛骨に達している。明日が休息日なのが唯一の救いだ」と痛々しいコメントを残している。

落車の被害者はフグルサングだけではない。この日はゲラルド・チオレック(ドイツ、ミルラム)やホセアンヘル・ゴメスマルチャンテ(スペイン、サーヴェロ)らも相次いで落車。その極めつけが、ラスト2.5kmで発生した大落車だった。

マイヨオロを守ったファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)マイヨオロを守ったファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Unipublic大落車に巻き込まれた選手の中で、重傷を負ったのはクリストファー・ホーナー(アメリカ、アスタナ)。アスタナのチーム公式サイトによると、ホーナーは何とかゴールラインまで走りきったが、搬送先の病院で左の中手骨(手の甲)骨折、左臀部の血腫、上唇の深い切り傷の診断を受けた。ホーナーは休息日にスペインに向かわず、アメリカの自宅に戻る予定だ。

昨年総合4位のエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)は足首と臀部を痛め、チームメイトに押されながらフィニッシュ。骨折は見つかっていないが、この落車の影響は後々の闘いに大きく影響しそうだ。

落車に巻き込まれた選手は全員完走し、ホーナーを除いて全員が第5ステージをスタートすると見られている。この日はシャールズ・ウェゲリュース(イギリス、サイレンス・ロット)が体調不良によりリタイア。今年ジロとツールを完走し、全グランツール完走がかかっていたウェゲリュースがレースを去った。現在ブエルタに出場中の選手の中でジロとツールを完走しているのは、残すところジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン)だけだ。

翌日は今大会最初の休息日。選手たちはオランダ4連戦の疲れを取り、スペイン本国での闘いに備える。

選手コメントはチームコロンビア・HTCとサクソバンクのチーム公式サイトより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2009第4ステージ結果
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)5h43'05"
2位 ワウテル・ウェイラント(ベルギー、クイックステップ)
3位 ベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)
4位 マルセル・シーベルグ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)
5位 マルコ・ヴェーロ(イタリア、クイックステップ)
6位 マッテーオ・トザット(イタリア、クイックステップ)
7位 アダム・ハンセン(オーストラリア、チームコロンビア・HTC)
8位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、サイレンス・ロット)
9位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、ミルラム)
10位 トーマス・ローレッガー(オーストリア、ミルラム)

マイヨオロ(個人総合成績)
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)15h12'38"
2位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)+09"
3位 ベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)+11"
4位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)
5位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン)+12"
6位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)+16"
7位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+17"
8位 ダビド・ガルシア(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+18"
9位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)
10位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)


モンターニャ(山岳賞)
1位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)9pts
2位 ハビエル・ラミレス(スペイン、アンダルシア)5pts
3位 セルゲイ・ラグティン(ウズベキスタン、ヴァカンソレイユ)3pts

プントス(ポイント賞)
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)53pts
2位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)38pts
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン)33pts

コンビナーダ(複合賞)
1位 ドミニク・ロエルス(ドイツ、ミルラム)175pts
2位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)199pts
3位 ハビエル・ラミレス(スペイン、アンダルシア)228pts

チーム総合成績
1位 チームコロンビア・HTC 45h39'00"
2位 クイックステップ +21"
3位 ミルラム +2'03"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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