2014/05/16(金) - 15:05
雨降り記録更新中。ここまでの6ステージ全てが雨に降られている。さすがにここまで雨続きのジロ・デ・イタリアは知らない。それに伴い落車も多発している。マリアローザのマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)の言葉通り、「現在のロードレースはポジショニングで決まる」。
10kmの迂回を余儀なくされ、コース全長が257kmに延長された第6ステージのスタート時間は早い。朝9時にはチームバスがスタート地点サッサーノに到着。とは言っても、アイルランド→イタリアの大移動を除けば、今年のステージ間の移動距離はいつもより短めなので助かっている。
ジロはバジリカータ州からカンパニア州へ。そしてこの日はラツィオ州へと入る。イタリアの中でも特にピッツァが美味しいエリアをジロが通過する。特に水牛の乳から作られた新鮮なモッツァレラチーズ「ブッフォラ」は最高だ。ちなみに南イタリアの相場は、女性だと食べきれないほどの大きさのピッツァマルゲリータが1枚500〜600円ほど。
ピッツァの美味しさ(平均値)がナンバーワンのカンパニア州は、路面の滑りやすさもナンバーワン。イタリアは州によって舗装が変わるらしく、カンパニア州の白っぽい(貝が混ざった)舗装は濡れてなくてもツルツル。
前日の落車の影響が心配だったため真っ先にユーロップカーのチームバスに向かう。すると愛犬コリンを抱えた全日本チャンピオンがチームバスから下りてきた。
落車から一夜明けて、新城幸也(ユーロップカー)はリフレッシュした表情を見せた。それでも痛いことに変わりが無いため、動きはいつもよりゆっくりだ。破れたショーツやグローブは破棄。シューズも傷んだため、現在新しいものを取り寄せているという。
「肩や腕は大丈夫ですが、尾てい骨が痛いです。夜はしっかり寝れましたけど、走ってみないと分からないですね」。全日本チャンピオンジャージが目立つため、そう言いながらスタートの準備をする新城のもとに何人もの観客が集まり、写真撮影を要求される。その度に笑顔で対応しながら、足早に新城はスタートに向かった。
「今日も昨日と同じです(エースのアシスト)。昨日は前半からかなり忙しく働きました。距離が長いので今日はゆっくり行きます」と話す別府史之(トレックファクトリーレーシング)は、暖かい太陽の下で笑顔を見せた。
と同時に、前日にパンクしながらフィニッシュしたロベルト・キセロフスキー(クロアチア)の走りを興奮気味に振り返る。「ロバートが前輪をパンクしたと聞いて、大きくタイムを失ったと思ったら、わずか23秒遅れだった。スピードの出る登りだったので23秒遅れは凄い。今の彼なら総合トップ5は狙えると思いますよ」。
カッシーノの街を見下ろす標高519mの岩山は、第二次世界大戦中にドイツ軍と連合軍が激しい戦闘を繰り広げた「モンテカッシーノの闘い」の舞台だ。4度にわたって激戦が繰り広げられた岩山の頂上には、最終的にアメリカ軍が爆撃して破壊した修道院(現在はすっかり再建されている)がある。
1944年5月18日の終戦まで、両軍合わせて10万人近い兵士が命を落とした岩山を、激戦から70年が経った2014年にジロが訪れる。ジロの主催者は追悼の意味を込めてこの岩山をコースに取り入れた。
レースレポートでお伝えした通り、勝負を決めたのはこの岩山の登りではなく、麓のラウンドアバウト(ロータリー)だった。
登り自体そこまで難易度は高くないので、おそらく落車がなければ40〜50人の集団で頂上にたどり着いていたと思われる。しかし落車で集団が形を無くしたため、どの選手も個人タイムトライアル状態で登坂した。
レース後に巻き起こったのは、先行したBMCレーシングとオリカ・グリーンエッジが後続を待つべきだったかどうかという議論だ。落車という不可抗力によってビッグネームが遅れた場合、復帰を待ってから勝負するという暗黙の了解プロトンの中にはある。
しかしこの日はその不文律が発動しなかった。過去に何度も「落車したものの待ってもらえなかった」カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)が1分近いリードを稼ぎ出した。今年のジロはエヴァンスを中心に回っている。今のところ総合ワンツーがオーストラリア人というのも興味深い。
落車を避けた新城は先頭から8分遅れで登ってきた。「今日は落車しなかった選手のほうが少ないんじゃないですか?街中で(ジロを歓迎するために)沿道から発射された紙のテープがディレイラーに巻き込んでストップしたチームメイトもいました」と、手荒い南イタリアのステージを振り返る。
「怪我は痛いけど、走っているからには仕事をちゃんとしないと」。前日に落車したことを忘れてしまうほどあっけらかんとしており、この日も淡々と集団先頭で仕事をこなした。他の選手たちは冷たい雨の中を自走で下山したが、新城は暖かいチームバンで岩山を下りた。
別府は15分遅れのグルペットでフィニッシュした。あまりにも遅れたので落車を心配したが、「転んでませんよ!安全運転ですから!」と元気な笑顔が返ってきた。
聞けば、集団の中程でハイスピードで走っている時に大落車が発生。何とか空いたスペースを見つけて転ばずに済んだものの、怪我を負ったジュリアン・アレドンド(コロンビア)の再スタートを待つためにストップした。「もっと走りたかったけれど、自分のステージのために力を蓄えて走った」という。
ベルファストでの開幕からここまで、チームプレゼンテーションを含めて、雨に降られなかった日はない。昨年も半分ほどのステージが雨に降られたが、今年は開幕からここまで6ステージ連続で雨が降っている。トラブルが多いため、チームもメディアも主催者も、一様に表情が暗い。そろそろ燦々と照りつける太陽の下でレースをしたい。
text&photo:Kei Tsuji in Montecassino, Italy
10kmの迂回を余儀なくされ、コース全長が257kmに延長された第6ステージのスタート時間は早い。朝9時にはチームバスがスタート地点サッサーノに到着。とは言っても、アイルランド→イタリアの大移動を除けば、今年のステージ間の移動距離はいつもより短めなので助かっている。
ジロはバジリカータ州からカンパニア州へ。そしてこの日はラツィオ州へと入る。イタリアの中でも特にピッツァが美味しいエリアをジロが通過する。特に水牛の乳から作られた新鮮なモッツァレラチーズ「ブッフォラ」は最高だ。ちなみに南イタリアの相場は、女性だと食べきれないほどの大きさのピッツァマルゲリータが1枚500〜600円ほど。
ピッツァの美味しさ(平均値)がナンバーワンのカンパニア州は、路面の滑りやすさもナンバーワン。イタリアは州によって舗装が変わるらしく、カンパニア州の白っぽい(貝が混ざった)舗装は濡れてなくてもツルツル。
前日の落車の影響が心配だったため真っ先にユーロップカーのチームバスに向かう。すると愛犬コリンを抱えた全日本チャンピオンがチームバスから下りてきた。
落車から一夜明けて、新城幸也(ユーロップカー)はリフレッシュした表情を見せた。それでも痛いことに変わりが無いため、動きはいつもよりゆっくりだ。破れたショーツやグローブは破棄。シューズも傷んだため、現在新しいものを取り寄せているという。
「肩や腕は大丈夫ですが、尾てい骨が痛いです。夜はしっかり寝れましたけど、走ってみないと分からないですね」。全日本チャンピオンジャージが目立つため、そう言いながらスタートの準備をする新城のもとに何人もの観客が集まり、写真撮影を要求される。その度に笑顔で対応しながら、足早に新城はスタートに向かった。
「今日も昨日と同じです(エースのアシスト)。昨日は前半からかなり忙しく働きました。距離が長いので今日はゆっくり行きます」と話す別府史之(トレックファクトリーレーシング)は、暖かい太陽の下で笑顔を見せた。
と同時に、前日にパンクしながらフィニッシュしたロベルト・キセロフスキー(クロアチア)の走りを興奮気味に振り返る。「ロバートが前輪をパンクしたと聞いて、大きくタイムを失ったと思ったら、わずか23秒遅れだった。スピードの出る登りだったので23秒遅れは凄い。今の彼なら総合トップ5は狙えると思いますよ」。
カッシーノの街を見下ろす標高519mの岩山は、第二次世界大戦中にドイツ軍と連合軍が激しい戦闘を繰り広げた「モンテカッシーノの闘い」の舞台だ。4度にわたって激戦が繰り広げられた岩山の頂上には、最終的にアメリカ軍が爆撃して破壊した修道院(現在はすっかり再建されている)がある。
1944年5月18日の終戦まで、両軍合わせて10万人近い兵士が命を落とした岩山を、激戦から70年が経った2014年にジロが訪れる。ジロの主催者は追悼の意味を込めてこの岩山をコースに取り入れた。
レースレポートでお伝えした通り、勝負を決めたのはこの岩山の登りではなく、麓のラウンドアバウト(ロータリー)だった。
登り自体そこまで難易度は高くないので、おそらく落車がなければ40〜50人の集団で頂上にたどり着いていたと思われる。しかし落車で集団が形を無くしたため、どの選手も個人タイムトライアル状態で登坂した。
レース後に巻き起こったのは、先行したBMCレーシングとオリカ・グリーンエッジが後続を待つべきだったかどうかという議論だ。落車という不可抗力によってビッグネームが遅れた場合、復帰を待ってから勝負するという暗黙の了解プロトンの中にはある。
しかしこの日はその不文律が発動しなかった。過去に何度も「落車したものの待ってもらえなかった」カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)が1分近いリードを稼ぎ出した。今年のジロはエヴァンスを中心に回っている。今のところ総合ワンツーがオーストラリア人というのも興味深い。
落車を避けた新城は先頭から8分遅れで登ってきた。「今日は落車しなかった選手のほうが少ないんじゃないですか?街中で(ジロを歓迎するために)沿道から発射された紙のテープがディレイラーに巻き込んでストップしたチームメイトもいました」と、手荒い南イタリアのステージを振り返る。
「怪我は痛いけど、走っているからには仕事をちゃんとしないと」。前日に落車したことを忘れてしまうほどあっけらかんとしており、この日も淡々と集団先頭で仕事をこなした。他の選手たちは冷たい雨の中を自走で下山したが、新城は暖かいチームバンで岩山を下りた。
別府は15分遅れのグルペットでフィニッシュした。あまりにも遅れたので落車を心配したが、「転んでませんよ!安全運転ですから!」と元気な笑顔が返ってきた。
聞けば、集団の中程でハイスピードで走っている時に大落車が発生。何とか空いたスペースを見つけて転ばずに済んだものの、怪我を負ったジュリアン・アレドンド(コロンビア)の再スタートを待つためにストップした。「もっと走りたかったけれど、自分のステージのために力を蓄えて走った」という。
ベルファストでの開幕からここまで、チームプレゼンテーションを含めて、雨に降られなかった日はない。昨年も半分ほどのステージが雨に降られたが、今年は開幕からここまで6ステージ連続で雨が降っている。トラブルが多いため、チームもメディアも主催者も、一様に表情が暗い。そろそろ燦々と照りつける太陽の下でレースをしたい。
text&photo:Kei Tsuji in Montecassino, Italy
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