「成長への階段」

「ツール・ド・おきなわ」が終了し、今年のロードレースシーズンも終わりを迎えようとしている。 振り返れば、今年も鹿屋体育大学は学生とは思えない目覚しい活躍を見せた。 これはチームが一丸となった証であり、そのためにキャプテンの存在は欠かせない。 彼は如何にしてチームをまとめあげていたのだろう。

ツール・ド・熊野2010、個人TTで力走する伊藤ツール・ド・熊野2010、個人TTで力走する伊藤 Photo:Hideaki.TAKAGI 鹿屋体育大学自転車競技部キャプテンを勤めさせて頂いている伊藤雅和です。

チームは「日本の自転車競技をメジャーにするために強い選手とレベルの高い指導者を育成する」といった明確な目標に向かい日々精進しています。自転車界のリーダーを育成しようと真剣に取り組む組織の中で、私が経験したことなどのほんの一部を紹介させて頂きます。

私が自転車競技と出会ったのは中学3年生の時です。
当時、一輪車でフルマラソンを走るというとてもきつい競技(全国優勝の経験もあります)をやっていた私に、関係者から「高校生になったら自転車をやってみないか?」と誘われたのがきっかけで、始めは「車輪が1つ増えて楽しそうだな」などと軽い気持ちでした。

自転車競技部のある法政大学第二高校に入って本格的なトレーニングが始まると、直ぐに「自転車競技は楽なものじゃない」ということがわかりました。
しかし指導を頂く寺崎豪紀先生や渋川敦志先生、熱心で理解のある保護者の方々等に恵まれて、さらに後々までライバルとなる良き部員達との出会いにより、順調に力を伸ばすことができ、自然と結果もついて来るようになりました。

法政大学第二高校のチームの方針は、「科学的トレーニング」「民主的チーム運営」「自主性」「競争意識」などを重視していて、鹿屋体育大学ととても良く似たところがあります。
人間教育もしっかり見据えた指導により、強いだけでなく人間性の向上も目指していますが、意識の高い周囲のメンバーに支えられて、高校3年時にはキャプテンという貴重な体験もさせて頂きました。

大学4年生になった今年、私以外にも当時チームメイトだった奥原亨君(中央大学)や市山研君(明治大学)らが各チームでキャプテンを務めているのも、高校時代に培った人間教育が活かされているものと思います。

鹿屋体育大学へ

この原稿を書いている丁度今、私は母校にて教育実習中で自転車競技部の毎日の練習や遠征にも付き合っていますが、先生方がこんなにも深く子供達のことを考えて毎日付き合って頂いていたことを改めて気付かされ、更なる感謝の気持ちが湧いてきました。

高校2年生の後半になると、ロード長距離では特別目立っていた鹿屋体育大学で競技力を伸ばしたいと漠然と考え始めました。

レース会場で鹿屋体育大学の片山和正先輩と知り合い、自分の気持ちを伝えたところ、黒川剛監督が作った受験候補者リストの上位にノミネートされている事が解りました。

「自ら申し出ない限りスカウトは無いよ」との片山先輩のアドバイスを受け、それからは積極的に自分をアピールし、AO入試制度で合格して無事入学を果たしました。

入学後に黒川監督に伺った話では「優勝したJOCカップのポイントレースの積極的な走りがとても良かった」とのことで、その時のレース展開などを驚くほど細かく再現・分析して頂き、噂で聞いていた「黒川監督やチームは結果よりも内容を重視する」という方針が本当だったことを知りました。

「競技力を高めたい」と強く決意して入学したはずでしたが、4年生には片山先輩(チームNIPPO→環太平洋大学コーチ)や村上純平先輩(シマノレーシング)、2年生には角令央奈先輩(日本競輪選手会)、そして同級生には内間康平ら日本連盟強化選手に指定されたそうそうたるメンバーがいて、3月初めにチームに合流した最初は苦しい練習から逃げ出したくなる時もありました。

1年次、2007年全日本学生クリテリウム選手権でチームメイトのアシストを受け大学初優勝(前から3人目が伊藤)1年次、2007年全日本学生クリテリウム選手権でチームメイトのアシストを受け大学初優勝(前から3人目が伊藤) Photo:Hideaki.TAKAGI しかしもともと時間を掛けて走るタイプの私にとって、高校時代とは比較にならない練習量がむしろ効を奏し、次第に先輩らに混じり走れるようになり、レースでも先輩らの指示で怖いもの知らずに好き勝手に走らせてもらいました。

比較的早くチャンスは訪れ、入学して間もない4月下旬の全日本学生クリテリウム選手権ではチームメイトに支えられ優勝することができ、6月の全日本学生チームロード選手権でも初優勝のメンバーになれました。

これらの結果が基となり、ラッキーなことに1年目から当時の日本ナショナルチームの三浦恭資監督から声がかかり、海外遠征を通じて強化して頂けるようになりました。

1年生ではフランスやイタリアを転戦したほか、アジアツアーのステージレースに参戦。エリートのレースを走るのは初めてで知らないことだらけでしたが、三浦監督の的確な指導をどんどん吸収し、レースの基本、難しさ、厳しさなどを一つずつ覚えていきました。

そしてツアー・オブ・タイランド(UCI2-2)では第5ステージ(214km)第5位、第6ステージ(176km)第7位、総合(全8ステージ1,143km)第11位になるなど、徐々に国際レースでも成績が残り始め、この頃から自転車の楽しみが解ってきたような気がします。

2年生になると益々遠征の回数は増えて、海外レースと国内レース、そして大学での授業との調整に苦労するようになりましたが、毎日充実した日々を過ごせました。

2008年ツール・ド・北海道でU23総合優勝、鹿屋4連覇達成2008年ツール・ド・北海道でU23総合優勝、鹿屋4連覇達成 2008ジャパンカップで鹿屋勢集合、梅丹の先輩2名とナショナルチーム3名(左から中島康晴・伊藤・内間・吉田・清水都貴)2008ジャパンカップで鹿屋勢集合、梅丹の先輩2名とナショナルチーム3名(左から中島康晴・伊藤・内間・吉田・清水都貴)

三浦監督との海外遠征も回を重ねる毎に動きが良くなり、この年のツール・ド・インドネシア(UCI2-2)では、第3ステージ(193km)で第6位に入った後、第4ステージ(221km)では遂にステージ優勝を決め、天にも昇る気持ちを体験しました。

その後も絶好調の日が続き、第8ステージ(80kmクリテリウム)で第2位になると、翌日の第9ステージ(190km)でも2回目のステージ優勝を決めることが出来ました。海外遠征のチャンスと指導を頂いた三浦元監督には今でも本当に感謝しています。

3年生になるとトラックレースでもナショナルチームの遠征の機会を頂き、アジア選手権のマディソンでは盛一大さん(愛三工業レーシングチーム)とペアを組ませて頂き、銀メダルを獲得することが出来ました。

競技者として、キャプテンとして

鹿屋体育大学で活動した4年間には、実に様々なことがありました。
トレーニング、遠征、授業、食事...。少ない自分の時間も含め、1年間のほとんどをチームメイトと過ごしていて、仲間の絆はとても深いと思っています。

この4年間、沢山のレースを走りましたが、特に仲間たちと走った一つ一つのレースにはドラマがあり、沢山の思い出が詰まっていますので、全てのレースを忘れることが出来ません。そこに至るまでの過程も知り尽くしていますので、レースで自分が勝ったときにも増して、苦労を共にしたチームメイトが勝ったときは、それ以上に嬉しく感じることが出来ました。 

鹿屋体育大学とは、「仲間を大事に出来る」そんなアットホームなチームでした。

練習でチームをまとめる伊藤練習でチームをまとめる伊藤 大学に於いても競技面はもちろん、人間的な面でも成長させて頂いたと感じています。
1~2年生の時は色々な面で好き勝手にやっていて、黒川監督や先輩方を困らせることもあり、思い返すと恥ずかしくなりますが、その経験が今の後輩の指導に生きています。

先輩方もそうした時期があった事を聞いていましたが、自分が上級生に上がるごとにチーム内での責任の大きさにも気付き、冷静に自分の立場をわきまえる事が出来るようになりました。

特に今期はロードタイヤのパナレーサーや自転車関連メーカーからのサポートを一気に充実して頂きましたし、加えてこれまでコツコツと築いてきた地域企業や市民の皆様から厚い支援を頂くことで、チームの活動が成り立っていますので、レースでの結果はもちろんのこと、社会に対しても活動を通じポジティブなメッセージを発信する必要性があります。

最上級学年を前に、前年の幹部が決めた新主将が私であることを最初に知ったときは、事の重大さに身震いがしたことを覚えています。
鹿屋体育大学のシステムは特殊で、チーム運営の総責任者となるキャプテンの他に、競技力向上の総責任となる強化部長がいて、両者が中心となってチームを牽引していくことになります。

競技の面では強化部長の内間に任せて、私はチームの運営に専念しました。
スポンサー等に支えられたチームですので、対外的な面での応対も必要になりますし、チーム全体の雰囲気や方向性も損なわず、一方で多様な価値観を持つ部員一人一人の充実した活動が横道に逸れないように上手に誘導しなければなりません。

2009年ツール・ド・北海道は前年のお返しに内間を徹底アシスト。内間とは永遠のライバルだ2009年ツール・ド・北海道は前年のお返しに内間を徹底アシスト。内間とは永遠のライバルだ
特に気をつけたことは、チームの輪から外れてしまう人を出さないこと。選手21名、スタッフ5名の部員達の一人一人の人間関係や生活面を常に気に掛けていました。

時には強化部長の内間とケンカ腰になって言い争うことも有りましたが、両者が良いチーム作りたいとの真剣な思いからで、この4年間海外遠征を含め最も活動を共にした彼との人間関係は最も濃厚でしたので、今後も友人として、そして最大のライバルとして付き合っていくことになることと思います。

こうして私自身も成長しながらのキャプテンは、全てが成功だった訳では有りませんが、同級生を中心に周囲の協力もあり何とか無事1年間務めることが出来たと思います。
先輩から私たちへ、そして後輩へ脈々と伝統は引き継がれて行きますが、まだ歴史のない鹿屋体育大学はこれから益々大きく育っていくチームだと信じて、これからの後輩に期待しています。

2010年熊谷クリテリウムで逃げる伊藤2010年熊谷クリテリウムで逃げる伊藤 Photo:Hideaki.TAKAGI 私自身の4年目の競技は空回りが多く、思うような結果が残せず不完全燃焼に終わってしまいました。
日本大学の連覇を阻止しようと意気込んだ最後の全日本インカレでは、優勝を狙ったロードで不覚にも落車に巻き込まれて鎖骨を骨折し、ツール・ド・北海道は欠場を余儀なくされましたので、これが鹿屋体育大学のジャージで走る最後の、そして痛い思い出のレースとなりました。

この悔しい気持ちはレースで晴らすしかできませんが、お陰様で卒業後も競技を続けていくことが出来ることになりました。

トラックにも挑戦したいと考えている今の私にとって、最も良い環境のチームで走らせて頂けることになりましたが、チーム名は近いうちに正式発表が有りますので楽しみにしておいて下さい。

これまで経験したことのないハードな、そして責任を求められる厳しいプロの世界への挑戦ですので、不安と楽しみが交錯していますが、もちろんやるからにはトップを目指して走り続けますので、鹿屋体育大学の成長同様、進化を続ける私の成長も見守ってください。


プロフィール
伊藤 雅和 いとう まさかず
1988年6月12日(22歳)
神奈川県・法政大学第二高校卒業
国立鹿屋体育大学体育学部スポーツ総合課程4年在籍中

自らトップ選手として活躍する傍ら、キャプテンとして選手21名・スタッフ5名が所属する強豪大学チームの指揮を取る。

主な戦歴:
1年次
○ツアー・オブ・タイランド(UCI2-2/台湾)
 ・個人総合(全8ステージ1,143km)第11位
 ・第5ステージ(214km)第5位
 ・第6ステージ(176km)第7位


○ツール・ド・北海道(UCI2-2)
 ・第4ステージ(164km)第9位
○全日本アマチュアロード選手権 U23(141km) 第3位
○全日本学生チームロード選手権(90km) 優勝
○全日本学生クリテリウム選手権(42km) 優勝
2年次
○ジョルジア・マレーシア(UCI2-2)
 ・第2ステージ(139.5km) 第8位
 ・第4ステージ(177.8km) 第10位
○プレジデントツアー・オブ・イラン(UCI2-2)
 ・第3ステージ(148km) 第5位
○ツール・ド・インドネシア(UCI2-2)
 ・個人総合(全12ステージ1,793km)第11位
 ・第3ステージ(193km) 第6位
 ・第4ステージ(221km) 優勝
 ・第8ステージ(80kmクリテリウム) 第2位
 ・第9ステージ(190km) 優勝

○ツール・ド・北海道
 ・U23個人総合(727km) 優勝
 ・第4ステージ(116km) 第4位
 ・第6ステージ(61kmクリテリウム) 第7位
○国民体育大会
 ・成年ロード(140.2km) 第5位
○全日本インカレ
 ・ロード(163.8km) 第5位
○全日本学生チームロード選手権(90km) 第3位
○全日本学生個人タイムトライアルロード(30km) 第2位
○全日本学生クリテリウム選手権(42km) 第2位
3年次
○エミレーツカップ(アラブ首長国連邦/126km) 第5位
○ツール・ド・インドネシア(UCI2-2)
 ・第1ステージ(12kmチームTT) 第3位
○全日本学生チームロード選手権(90km) 第3位
○全日本学生個人タイムトライアルロード(30km) 第2位
4年次
○ツール・ド・コリア(UCI2-2)
 ・団体総合 第3位
 ・第2ステージ(138.6km) 第4位
○全日本学生チームロード選手権(100km) 優勝
○全日本学生個人タイムトライアルロード(30km) 第2位
○全日本学生クリテリウム選手権(42km) 第2位

Panaracer 「CG(Cedric Gracia) CX」
パナレーサー CG CXパナレーサー CG CX パナレーサー CG CX のトレッドパターンパナレーサー CG CX のトレッドパターン

MTBレース界のカリスマ、セドリック・グラシア選手との共同開発で商品化されたMTBタイヤ「CG XC」は、トレードマークの「CG」を活かした今までに無いトレッドパターンと、新技術のZSGコンボコンパウンドで、走りが軽いオールラウンドタイヤとして好評を得ている。

この「CG XC」のノウハウを注ぎ込まれたシクロクロス用タイヤが「CG CX (CYCLO CROSS)」。

700×32CでUCIの新ルールにも対応。合わせて、「R’AIR」でも待望の700×31~35C対応サイズがラインナップに追加されるので、シクロクロスのポテンシャルは一気に向上するだろう。

サイズ W/O 700×32C
スペック ZSG(ゼロ・スリップ・グリップ)コンボコンパウンド、
ASB(アンチ・スネーク・バイト)チェーファー、
アラミドビード
重量 300g(ave)
  2010年 12月発売予定

Panaracerサポート選手の注目リザルト
■熊本国際ロード2010
優勝  宮澤崇史選手(TEAM NIPPO)
山岳賞 3周:山本元喜選手(鹿屋体育大学) 9周:中島康晴選手(TEAM NIPPO)
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■Jサイクルツアー2010第16戦 サイクルロードレースin輪島
2位 中村誠選手(宇都宮ブリッツェン)
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■2010ジャパンカップ クリテリウム
7位 宮澤崇史選手(TEAM NIPPO)
9位 辻善光選手(宇都宮ブリッツェン)
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■2010ジャパンカップ サイクルロードレース
6位 宮澤崇史選手(TEAM NIPPO)
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■ツール・ド・おきなわ2010 第1ステージ個人TT
5位 吉田隼人選手(鹿屋体育大学)
6位 向川尚樹選手(マトリックスパワータグ・コラテック)
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■ツール・ド・おきなわ2010 女子国際100km
5位 木村亜美選手(鹿屋体育大学)
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■ツール・ド・おきなわ2010 第2ステージ210km
ステージ4位、個人総合 3位 佐野淳哉選手(TEAM NIPPO)
個人総合山岳賞 1位 長沼隆行選手(宇都宮ブリッツェン)
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■日本トライアスロン選手権
3位 細田雄一選手(グリーンタワー・ 稲毛インター )
■アジア競技大会 トライアスロン
優勝 細田雄一選手(グリーンタワー・ 稲毛インター )
■ベルリンマラソン(ドイツ)
車イス男子優勝 副島正純選手(C's Athlete)
車イス女子優勝 土田和歌子選手(サノフィ・アベンティス)
■シカゴマラソン(アメリカ)
車イス男子2位 副島正純選手(C's Athlete)
車イス女子2位 土田和歌子選手(サノフィ・アベンティス)
■ニューヨークシティマラソン(アメリカ)
車イス男子2位 副島正純選手(C's Athlete)

提供:パナソニック ポリテクノロジー株式会社