「どっちも良くて、どっちを選べばいいのか分からない!」そんな声にお応えするべく、アンカーが同価格帯でラインナップする、レーシングモデルのRP8と新型エンデュランスロードRE8を、ジャーナリストの安井行生が乗り比べた。本当に幸せになれる選び分けの指南とは?RP8を購入したシクロワイアード編集スタッフのコラムと共にお伝えします。

人間と製品のすれ違い by 安井行生

アンカーがラインナップするロードミドルグレードロード2本柱。ジャーナリストの安井行生がRE8とRP8を乗り比べた photo:Yuichiro Hosoda

「欲しいもの」が自分にとって「最適で必要なもの」とは限らない。
「必要なもの」が「欲しくなる」とも限らない。

うんうんそうだよね~とこれを読んでいるあなた。他人事じゃないですよ。
これはなにも自転車に限った話ではないから。

スマホだってPCだって、その機能をフルに活用している人はごく少数だろうし、スマホが一般化したいま時間を知るための腕時計は不要になった。SNSで「いいね!」を獲得する写真を撮るためにミラーレス一眼なんて必要ないかもしれない。車だってそうだ。SUVの大半は一度もオフロードを走らない。ほとんどの車は一度も最高出力を発揮せぬまま、一度も最高速に達しないまま生涯を終える。

「欲しいもの」と「本当に必要なもの」との間で、人間と製品はずっとすれ違っているのだ。

「だからあなたたちサイクリストも、『欲しい』という欲望を押し殺して『必要十分で身の丈に合ったもの』を買いなさい」と言いたいわけではない。「本当はカッコいいレーシングバイクが欲しいけれど、レースはやらないから我慢してエンデュランスロードにする」は、正しい自転車選びかもしれないが、いい愛車選びではない。

昨夏デビューしたRE8よって完成したアンカーのロードラインナップ。レーシングバイクとエンデュランスロードの性能差が近づいた現代において、この2モデルが意味することを探った photo:Yuichiro Hosoda

とはいえ、自転車における「過剰な性能」は、PCやスマホのそれとは違い、人体にとって負担となり得るから注意が必要だ。狭い専用ハンドルを装備し、近代プロの大馬力を前提に仕立てられた最新鋭のハイエンドバイクは、一般サイクリストには手に余る物体になりつつある。ポジションが出せない、フレームが硬すぎる……車両コンセプトがあまりに使用目的と乖離していると、楽しいライドも苦痛なものになりかねない。

というわけで、アンカーが同価格帯に並べているRE8とRP8に目を向けてみる。

エンデュランスとレーシング

2024年に発表されたアンカー・RE8は、安心して長距離をこなせる「エンデュランス性」に、RPシリーズの開発で得られた空力や剛性バランスなど「速く走るための技術」を加えた、アンカーの新世代エンデュランスロードである(詳しくは登場時の特集記事を参照のこと)。

RP8は旗艦RP9と形状を同一としつつ素材を変更し価格を下げたレーシングバイク。プレスリリースは「主要な部位の剛性はRP9比で約90%としつつも、走行フィーリングを左右する剛性バランスはRP9と同等としたことで、RP9譲りの走行性能を実現」と主張している。その剛性ダウン&重量アップと引き換えに得たものは、フレームセットで約20万円も安い価格だ。

RP8の価格、105Di2完成車が524,000円、105完成車が414,000円、フレームセットで330,000円。
RE8の価格、アルテグラ完成車が935,000円、105Di2完成車が489,000円、105完成車が379,000円、フレームセットで320,000円。

RP9という兄貴がいるためRP8にはアルテグラ完成車は設定されないが、105完成車やフレームセット同士で比較すると、RP8とRE8はほぼ同じ価格レンジである。
同じメーカーから出た同じ価格のこの2モデルの選び方についてなにか書いてみなさい、というのが今回編集部から課されたお題だ。

まず、ちょっと視点を上げてレーシングバイクとエンデュランスロードの在り方の変化について考えてみる。

かつてはレーシングバイクとエンデュランスロードは別人だった。前者はガチガチ、後者はフワフワ。しかし昨今のタイヤのワイド化とチューブレス化によって、レーシングバイクの快適性がエンデュランスロードを侵食しつつある。グラベルロードやオールロードの多様性もエンデュランスモデルの生息域とオーバーラップする。一方、エンデュランスロードは黎明期に否応なく付いてしまった「快適なだけでネムいバイク」という負のイメージを払拭するため、動的性能を磨く。

結果、両車はどんどん接近する。ますます選ぶのが難しくなる。

エンデュランスが「快適なだけでネムいバイク」だったのは今は昔。時代は確実に進んでいる photo:Yuichiro Hosoda

試乗で乗り比べて決めるのは得策とは言えない。体がフレッシュな状態での数km/数十分のチョイ乗りインプレでは、どうしても軽く俊敏で分かりやすい性能を備えているレーシングバイクの印象がよくなってしまう。しかしスポーツバイクとは、長ければ一日中、疲れ果てた状態でも乗り続けるものなのだ。

なめらかプリンと、ビシソワーズ

とはいえ、せっかくRE8とRP8の105Di2完成車の試乗車を用意していただいたので、改めて真面目にインプレしてみよう。

素性の良さを感じるRP8の走り。極めて自然で気持ちの良いフィーリングだ photo:Yuichiro Hosoda

まずはRP8から。プロフォーマット時代のアンカーらしさ(自然で扱いやすい挙動や、しなやかで疲れにくいペダリングフィールなど)はRP8にも健在だ。中負荷でのRP8の振る舞いは素晴らしい。RP9と同条件で比較すればゼロスタート近辺や高速高負荷域での運動性能に差はあるが、素性がいいとしか表現しようのない、自然で気持ちのいい走りを持っている。開発段階では社内で「RP9と性能が近すぎるのではないか」との懸念の声が出たというが、それもむべなるかな。

ちなみに、105完成車にはマヴィックのアクシウムディスクというやや古い設計(リム内幅17mm)のホイールが付属しており、純正タイヤは今となっては細めの28Cだが、RP8とこの脚周りの相性は決して悪くない。もともとマヴィックの下位グレードは「持つと重いが走ると軽い」を地で行く良作であることが多く、エントリーグレード完成車にありがちな「とりあえず形にするために鉄下駄を入れといたので、お好きなホイールに交換して乗ってください」ではなく、純正状態でもいい走りを楽しめる仕立てになっている。そういう意味で良心的なアッセンブルである。

では、RE8。RP8と比べると剛性感がソフトで、脚当たりが明らかに柔らかい。ペダリングフィールはどこまでもクリーミー。入力の大小を問わず徹頭徹尾なめらかプリン的なこの剛性感に比べると、RP8のそれはわずかな粒立ち感を残したビシソワーズ的シャーベット的なペダリングフィールであることが分かる。どちらも同じくらいに魅力的だ。

RE8が快作たる所以

クリーミーなペダリングフィールを味わえるRE8 photo:Yuichiro Hosoda

RE8で注目すべきは、そこまでマイルドに仕立てながらも、動力伝達性がさほど犠牲になっていないことだ。漕ぎ出しの最初の一瞬はやんわりと大人しいが、しかし次の瞬間は結構なトルクでキックされる。RP8の105Di2完成車同様、ホイールの選定も効いている。RE8の105Di2完成車に付いてくるのはDTスイスのP1800スプライン。これもスペックは目立たないが走りは悪くない。

こうして田舎道でRE8とRP8を乗り比べていると、その巧な作り分けに舌を巻く。RE8と比較するなら、RP8は「がっちりと頼もしくシャープに動く」という印象になる。RP9ほどではないけれど、RP8もあくまで出自はレーシングであり、自ずと下ハン握って顔を両腕の間に埋めてエアロフォームで……という走りをしたくなる。アグレッシブな走りをするのなら、選ぶべきはRP8だ。

一方RE8は、試乗車のハンドルがかなり高めにセットされていたこともあるが、やはりツーリング的な走りを楽しみたくなる。しかし前述の通り動力性能に隔靴掻痒感はないから、目の前に長い上りが現われても「いっちょやってやりますか」という気になれる。

最初の足あたりはマイルドだが、一呼吸おいて加速に繋げてくれる。RE8の動力性能は本物だ photo:Yuichiro Hosoda

選択をさらに難しくしているのは、RE8がエンデュランスロードとしては「かっこいい」ことだ。かつてのエンデュランスロードは、いかにも快適で安楽そうな物体であり、外観はスピーディーとかシャープとは無縁の形状だった。しかしRE8は、あくまで主観ではあるが、「エンデュランス」をコンセプトとしつつレーシーで速そうに見える。これはデザイナーがそう目指した結果だ。だから、「自分の使い方に合ったエンデュランス性をとるか、見た目のカッコよさをとるか」という不幸な二択をしなくて済む。

ではまとめを。

アグレッシブな走りを求めるならRP8だし、「進化したエンデュランスモデル」を味わいたいならRE8。しかし両者の奥行きは深く、単純な選択にはならないのだ photo:Yuichiro Hosoda

エンデュランス性とレーシング性能をいいポイントでバランスさせ、ハンドリング的にも剛性感的にも扱いやすく、かつ見た目も魅力的というRE8。

スポーツバイクシーンがレース至上主義・ハイエンド機材偏重主義とは異なった価値観を見出しつつあり、しかしその一方で市井のエンドユーザーの趣向として「シャープでレーシーなものに魅力を感じる」という風潮が残るなか、このRE8は「欲しくなるものであり、同時に最適なものでもある」という存在になり得る。スポーツバイク界においてユーザーと製品のすれ違いを解消する存在になり得る。だから筆者は、RE8を「僕らのための自転車」だと評して憚らないのだ。

安井行生 プロフィール

安井行生(自転車ジャーナリスト) photo:Yuichiro Hosoda

これまで幾度となくアンカーへの取材と試乗を繰り返してきた自転車ジャーナリスト。小柄なこともあって日本人の体形に最適化された歴代のアンカーには高評価を下してきたが、2016年のプロフォーマット以降はより同社の技術や動向に注目。あくまで中立の立場を貫きつつ、RP9、RP8、このRE8という近代アンカー3部作についても本社での技術者インタビューを行っている。


CWスタッフ RP8購入コラム

ここから紹介するのは、実際にRP8を購入したシクロワイアード編集スタッフ細田のミニコラム。エンジニア兼デザイナーときどきカメラマンとして弊サイトを支えてくれている氏は、実は20年前には「めちゃくちゃ速いよね」と言われるほどのヒルクライマー。愛しのコーヒーカルチャーと共にゆったり自転車ライフを過ごす、今のジブンにピッタリというRP8の魅力とは?

「カッコよさに惹かれて買ったら、乗り味も自分にピッタリだった 」 by 細田雄一郎

RP8を購入したCWスタッフ細田。ホビーユーザー目線でRP8を紹介していきたい photo:So Isobe

まず写真でご覧の通り、現在の私は恥ずかしながら、本気のロード乗りとは言えぬ体型であることをお断りしておきたい。昔は草レースに出たり、国内や欧州を旅した経験もあるものの、今は前後リムブレーキを装着したピストで買い物がてらの街乗りをしたり、シクロクロスで近場のダートを走る程度のユルいファンライダーだ(昔も全然速くないですからね!)

RP8の前はウィリエールのチェントウノに乗っており、カーボン製ロードフレームを更新するのは実に14年ぶり。昨年の11月にはRP8を予約しており、納車のタイミングが当特集に合ったため、購入者としてコラム執筆のお声がけを頂いた次第。

選択したのは、RP8 105 Di2完成車のブラック。まず良かったのが、踏んだ時の剛性感が程よく、以前試乗したことのある上位モデルのRP9よりも脚に優しい点。電動による変速システムは静かでレスポンスも良く、変速時のショックも最小限。ディスクブレーキは高い制動力を与え、リスクへの備えを強化してくれる。乗り手にストレスを与えないように仕上がっていると感じた。

程よい剛性感が心地いい。機材の進化のありがたみも理解できた photo:So Isobe

唯一気になった点はホイールで、完成車に着いてくるマヴィックのアクシウムは、ワイド化傾向にある現在において、リム内幅17mmと細身なもの。ブリヂストンのエクステンザR1X 700✕28Cクリンチャーもやや細身のタイヤで、トレッド幅がこの組み合わせで実測25.3mm程となっており、実質25Cのタイヤを履いていると言っていい。そのため、28Cの感覚で空気圧を設定すると危うい。

ただ、私の場合はピストもロードも長らく25Cを履いていたため、適切に空気圧を調整して走り出せば、そんな数値上の事はすぐ忘れる程度のことだった。私の脚でもゼロ発進からスッと25km/hあたりまで加速してくれるし、RP8自体の快適性も手伝って、いきなり多くを望まなければ、これで十分なシーンが大半だな、と思わせてくれた。

では、あえてホイールを変えるとどうか。私の手元にはシクロクロスに着けていた内幅21mmのシマノ アルテグラ C36(WH-R8170-C36-TL DISC)があり、これにR1X 700✕28Cチューブレスを履かせて走ってみた。実測のトレッド幅は27.3mmとなり、空気圧も5気圧前後まで落とした。

こうするとワイドリムとタイヤの性能が相まって、路面からのショックの軽減や更なるグリップ向上が実感出来た。重量も軽くなり、上りでも良く脚が回る。アルテグラ C36は比較的お手頃なカーボンホイールでもあるため、R1Xチューブレスとの組み合わせは、最初のアップグレードに最適な選択の1つかもしれない。

黒にガンメタロゴという潔い渋さ。デザインに惹かれたけれど、走りも今の私にはピッタリだった photo:So Isobe

正直言うと、黒フレームにガンメタリックのロゴというRP8の渋いデザインに惹かれて購入したのだが、硬すぎも柔らかすぎもしないフレーム特性は、今の私にピッタリだった。またヒルクライムレースにでも出てみようかな?なんて気になってしまったくらい。もちろん現実はそう甘くないことも知っているので、まずは日々、RP8に乗ってサイクリングを楽しみたい。

もう一度書くけれど、RP8ブラックモデルはカッコよさが一番。大きくも控えめなBRIDGESTONEのロゴが最高だ。

RP8には限定カラーも登場 RP8 & RE8 全モデルスペックと価格

先述の通り、アンカーがラインナップする両モデルは、それぞれ完成車とフレームセットでの販売となる。完成車はRP8がシマノ105のDI2モデルと機械式変速モデルの2バリエーションで、RE8はシマノULTEGRA DI2完成車も加えた合計3バリエーションでのラインナップだ。

また、RP8には限定カラー「レーシングシャインレッド」と「レーシングディープブルー」の追加発売が発表されたばかり。それぞれレースにかける情熱と勝利を追求する気高さを表現した、伝統のアンカーらしい魅力溢れるカラーリングだ。この限定カラーには105(機械式変速モデル)の完成車は設定されないため注意のこと。

RP8 ラインアップ

105 DI2105フレームセット
カラー
RACING SHINE RED(限定)、RACING DEEP BLUE(限定)、RACING BLACK、RACING WHITE ※限定色はDI2完成車とフレームセットのみ
サイズ
440、490、510、530
コンポーネント105 Di2 R7150105 R7100-
ホイールMAVIC AKSIUM DISCSHIMANO WH-RS171-
タイヤEXTENZA R1X 700×28C(CL)EXTENZA R2X 700×28C-
ハンドルALUMINIUM HANDLE BAR, φ31.8ALUMINIUM HANDLE BAR, φ31.8-
ステムANCHOR AERO STEMANCHOR ALUMINIU STEM-
シートポストANCHOR CARBON AERO SEATPOSTANCHOR CARBON AERO SEATPOSTANCHOR CARBON AERO SEATPOST
サドルSELLE ITALIA X1 BLACKSELLE ITALIA X1 BLACK-
税込価格524,000円414,000円330,000円

RE8 ラインアップ

ULTEGRA DI2105 DI2105フレームセット
カラー
FOREST KHAKI、OCEAN NAVY、STONE GRAY
サイズ
390、420、450、480
コンポーネントULTEGRA Di2 R8150105 Di2 R7150105 R7100-
ホイールDT SWISS ERC1400 45mmDT SWISS P1800 DISCSHIMANO WH-RS171-
タイヤEXTENZA R1X 28CEXTENZA R2X 32CEXTENZA R2X 32C-
ハンドルANCHOR CARBON AEROBAR φ31.8ALUMINIUM φ31.8ALUMINIUM φ31.8-
ステムANCHOR AERO STEMANCHOR AERO STEMALUMINIUM-
シートポストANCHOR CARBON φ27.2ALUMINIUM φ27.2ALUMINIUM φ27.2-
サドルFIZIK TERRA ARGO X1SELLE ITALIA X3SELLE ITALIA X3-
税込価格935,000円489,000円379,000円320,000円
編集 : CW編集部
photo:Yuichiro Hosoda