2019/07/12(金) - 11:55
ツール・ド・フランス制覇を目標に立ち上げられたイギリス籍のUCIワールドチーム「チームイネオス(元チームスカイ)」。2012年にブラドリー・ウィギンズがパリでマイヨジョーヌに袖を通して以来、毎年のようにツールの総合首位に手をかける名門チームだ。
現在ではクリストファー・フルーム、ゲラント・トーマスによるグランツールの活躍だけに留まらず、ミカル・クウィアトコウスキーによるクラシックシーズンなど1年を通してレースの先頭で展開するため、選手たちの姿をTVで見る機会は非常に多い。
彼らは勝利を手中に収めるために「マージナルゲイン」というコンセプトを掲げており、使用する機材には非常に強いこだわりを持っている。このページでは彼らがチーム立ち上げ当時より着用しているヘルメットブランド「KASK(カスク)」を取り上げる。ブランドの歴史を振り返り、GMであるディエゴ・ザンボンさんのインタビューをお届けしよう。
チームイネオス(2018年当時スカイ)とは密接な関係を持つカスク photo:Makoto.AYANO
イタリアの自転車競技は非常に歴史が長く、バイクやパーツメーカーには老舗が非常に多い。セッレイタリアは創業から100年が経過し、カンパニョーロはそろそろ90周年、デローザも非常に歴史のあるチクリだ。そんな古豪がひしめくイタリアンサイクリングシーンにおいて、2004年創業のカスクは非常に若い。
スタートからサイクリング用ヘルメットを手がけていたわけではなく、それがスタートしたのは創業より2年後の2006年からであった。その後、2008年には工事現場などで着用するようなモデルを揃えたセーフティのカテゴリーに進出。2009年、スキーやスノーボードと言ったスノースポーツ、2015年には乗馬用カテゴリーまで手を伸ばしていく。
その頃には既にチームスカイとの関係は開始されており、カスクは存在をサイクリングシーンで全世界に知らしめていた。MOJITOやVERTIGO、BAMBINO、INFINITYなど、当時のチームスカイの面々が着用していたのは記憶に新しい。
今回迎え入れてくれたカスク本社のラウラさんとジャコモさん
そして2016年、カスク社は新たな一歩として新アイウェアブランドKOO(クー)を立ち上げる。ファーストプロダクトであるOpenの開発には、当時プロコンチネンタルチームであったドラパック・プロサイクリングが協力した。
2016年のツアー・ダウンアンダーでクーがデビューし、2018年にはアルベルト・コンタドールとイヴァン・バッソがアンバサダーとして就任。そして2019年はUCIワールドチームのトレック・セガフレードが使用することに。
VALEGROにはパステルカラーがラインアップされるという。奥はPR担当のラウラさん
アジアマーケティング担当のジャコモさんが一つ一つのプロダクトを説明してくれた
「カスクのヘルメットは後ろ髪を入れることができるから良いのよ」とラウラさん
本社のプレゼンテーションルームにはフルラインアップが展示されていた
ヘルメットのカスクがアイウェアまで手がける理由は、首から上の安全性を設計するため。安全性、品質、デザインの全てを追求するカスクが、ヘルメットと相性の良いサングラスを開発することは必然でもあったのだろう。
さて、話をカスクに戻す。2004年から成長と拡大を続けるカスクのサイクリングヘルメットの現在は、PROTONE、VALEGRO、UTOPIAなどロードレース用のものや、BAMBINOやMISTRALといったTT系、REXからスタートしたオフロード系、LIFESTYLEなどアーバンサイクリング系など手広く手がけている。これからもカスクは拡大を続けていくに違いない。今後にも期待が高まる。
閑話休題:カスクは全てメイド・イン・イタリー、本社近くの工場へ訪問
最近改装されたばかりというカスク本社。工場はまた別の所にある
ざっとカスクの歴史はこんなところ。この歴史の背景にはカスクのヘルメットが全てイタリア国内で生産されていることも忘れてはならないポイント。国内で生産するからこそクオリティを保つことができるのだという。イタリア本社を訪問した際に、ベルガモのオフィスにほど近いアウターシェル工場にも足を運んだ。そこで見た生産工程を少し紹介しよう。
大まかに説明すると以上が成型過程だ。ここで作られたアウターシェルにEPSフォームを盛っていくことでヘルメットの形となる。また、今回足を運んだ際にはVALEGROのシェルを制作していたため、マルチモールディングというテクノロジーがどのようなものか確認できた。
現在ではクリストファー・フルーム、ゲラント・トーマスによるグランツールの活躍だけに留まらず、ミカル・クウィアトコウスキーによるクラシックシーズンなど1年を通してレースの先頭で展開するため、選手たちの姿をTVで見る機会は非常に多い。
彼らは勝利を手中に収めるために「マージナルゲイン」というコンセプトを掲げており、使用する機材には非常に強いこだわりを持っている。このページでは彼らがチーム立ち上げ当時より着用しているヘルメットブランド「KASK(カスク)」を取り上げる。ブランドの歴史を振り返り、GMであるディエゴ・ザンボンさんのインタビューをお届けしよう。
世界最高峰チームとタッグを組むイタリアンヘルメットブランドとは
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イタリアの自転車競技は非常に歴史が長く、バイクやパーツメーカーには老舗が非常に多い。セッレイタリアは創業から100年が経過し、カンパニョーロはそろそろ90周年、デローザも非常に歴史のあるチクリだ。そんな古豪がひしめくイタリアンサイクリングシーンにおいて、2004年創業のカスクは非常に若い。
スタートからサイクリング用ヘルメットを手がけていたわけではなく、それがスタートしたのは創業より2年後の2006年からであった。その後、2008年には工事現場などで着用するようなモデルを揃えたセーフティのカテゴリーに進出。2009年、スキーやスノーボードと言ったスノースポーツ、2015年には乗馬用カテゴリーまで手を伸ばしていく。
その頃には既にチームスカイとの関係は開始されており、カスクは存在をサイクリングシーンで全世界に知らしめていた。MOJITOやVERTIGO、BAMBINO、INFINITYなど、当時のチームスカイの面々が着用していたのは記憶に新しい。
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そして2016年、カスク社は新たな一歩として新アイウェアブランドKOO(クー)を立ち上げる。ファーストプロダクトであるOpenの開発には、当時プロコンチネンタルチームであったドラパック・プロサイクリングが協力した。
2016年のツアー・ダウンアンダーでクーがデビューし、2018年にはアルベルト・コンタドールとイヴァン・バッソがアンバサダーとして就任。そして2019年はUCIワールドチームのトレック・セガフレードが使用することに。
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ヘルメットのカスクがアイウェアまで手がける理由は、首から上の安全性を設計するため。安全性、品質、デザインの全てを追求するカスクが、ヘルメットと相性の良いサングラスを開発することは必然でもあったのだろう。
さて、話をカスクに戻す。2004年から成長と拡大を続けるカスクのサイクリングヘルメットの現在は、PROTONE、VALEGRO、UTOPIAなどロードレース用のものや、BAMBINOやMISTRALといったTT系、REXからスタートしたオフロード系、LIFESTYLEなどアーバンサイクリング系など手広く手がけている。これからもカスクは拡大を続けていくに違いない。今後にも期待が高まる。
閑話休題:カスクは全てメイド・イン・イタリー、本社近くの工場へ訪問
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ざっとカスクの歴史はこんなところ。この歴史の背景にはカスクのヘルメットが全てイタリア国内で生産されていることも忘れてはならないポイント。国内で生産するからこそクオリティを保つことができるのだという。イタリア本社を訪問した際に、ベルガモのオフィスにほど近いアウターシェル工場にも足を運んだ。そこで見た生産工程を少し紹介しよう。
1:ポリカーボネートのシートに着色
2:シートをヘルメットの形に成型
3:不要な部分をカットする
2:シートをヘルメットの形に成型
3:不要な部分をカットする
大まかに説明すると以上が成型過程だ。ここで作られたアウターシェルにEPSフォームを盛っていくことでヘルメットの形となる。また、今回足を運んだ際にはVALEGROのシェルを制作していたため、マルチモールディングというテクノロジーがどのようなものか確認できた。
マルチモールディングはアウターシェルを複数のパーツに分ける技術。これにより複雑な形状なども形づくることができ、より優れたパフォーマンスを実現することができるというものだ。VALEGROではメインのシェルに加えて、鉢周りが別体とされていた。写真では紫のシェルが積まれているダンボールの中に、メインと鉢周りが一緒に収納されていることがわかる。
工場は物を作る場所であり、性能を決定するのはR&Dである、と見学して実感することができた。世界の第一線で活躍しているプロダクトを生み出した開発者たちに尊敬の念を抱かずにいられようか。そんなことを考えたカスク工場見学であった。
続いてはゼネラルマネージャーのディエゴ・ザンボンさんのインタビューをお届けしよう。
カスクを率いるGMディエゴさんに聞くブランドのこと、最新テクノロジーのこと
―お時間をいただきありがとうございます。まず、カスク社として最も重要視していることは何でしょうか。
カスクが最も大事にしているものは安全性で、開発を行う時も安全性の検討からスタートします。開発において最も難しいのは、安全性とサイクリングヘルメットに必要なベンチレーションなどとの性能のバランスを見つけることです。そこが新製品開発のポイントですね。
チームイネオスとのコラボレーションは重要なことで、最新プロダクトであるUTOPIAはミラノ~サンレモなどのクラシックレースのために開発しました。ポイントはスピードが求められますが、それと同じように通気性も重要です。エアロダイナミクスとベンチレーションのバランスを見つけることに注力しました。
ゼネラルマネージャーのディエゴさん
PROTONEやVALEGROも同じようにプロ選手たちが着用するために作ったモデルです。ご存知の通り、PROTONEはツール・ド・フランスの多くのステージで使われており、ヒルクライムや平坦など様々な地形が現れる時に活躍してくれるオールラウンドヘルメットです。対してVALEGROは山岳ステージにフォーカスし、軽量性と通気性を追い求めたモデルですね。
ツールやジロで選手たちが着用しているヘルメットを見れば、それぞれに適した使用シチュエーションがわかります。ユーザーの皆さんも彼らの頭に注目してみてください。
―チームイネオスとはチーム設立時からの付き合いですが、どのような関係性を作り上げているのでしょうか。
チームイネオスとパートナーの関係性は少し特別で、サイクリング業界では例を見ないコラボレーションだと思っています。一般的なパートナーシップは、メーカーが製品を提案し、チームはそれを選択する形です。プロからのフィードバックを製品に反映させることはあると思いますが、チームは用意された選択肢からの中から良いものを選択するのです。
チームイネオスはパートナーを選び、メーカーはチームと共に要望に合わせたプロダクトを開発していくのです。その形は協業と言うよりは投資しているという形なのかもしれません。その結果、新しいプロダクトを生み出すことができているのですから。
チームキットもイネオスの赤色に染められている (c)CorVos
―新製品のチーム供給と販売開始のタイミングが1年ほど離れる理由はなぜですか。
チームが使用開始した後も継続的にフィードバックを受けながらブラッシュアップを続けているためです。最終的な製品となる時は、プロからの意見を反映させたものがユーザーの手に届けられるようになっています。それが着用開始と販売開始のタイミングに差が生まれる理由です。
―MIPSやWave Celのようにヘルメットにまつわる新しいテクノロジーの登場が目覚ましい昨今です。現在のヘルメットトレンドについてのお考えをお聞かせください。
数年前と比べるとヘルメットの形は大きく変わってきていて、以前のヘルメットは角が立ったデザインやロングテールデザインでした。ここでちょっとした自慢なんですけど、今の丸っこいデザインのヘルメットを最初に作り上げたのはカスクと言えます。
このトレンドを作ることができたのは、チームイネオスとのコラボレーションのおかげですね。チームの要望に応えられるパフォーマンスを備えたヘルメットを供給するために、そういった形となりました。
2010年ツール・ド・フランスでBAMBINOを着用するブラドリー・ウィギンズ photo:Kei Tsuji
マーク・カヴェンディッシュがMOJITOを着用しスプリントステージに臨んでいた photo:Kei Tsuji
もちろん高性能な製品をチームに渡すのは大事なことですが、開発においては安全性が第一です。セーフティでなければ、エアロダイナミクスなどのパフォーマンス向上のステップには進むことができません。そして最後のステップとしてデザインとなります。安全性、性能に妥協することなく、新しいデザインを生み出せたのは少し自慢ですね。
トレンドという面ではもうひとつ。10年ほど前までは、各ブランドは製品の数を絞り、自分たちの歴史やストーリーを語りながら製品を説明していました。最近のトレンドでは、特に大きな会社はユーザーに多くの選択肢を提供しようとヘルメットのラインアップを増やしています。様々なグレードであったり、各使用シチュエーションに合わせたモデルであったりと、多くの製品を用意しています。これが最近のヘルメットブランドの流れです。
で、MIPSとかの質問でしたっけ? あまり好きじゃないんですよね。
―失礼しました……
気にしないで(笑)。毎日のように質問されて飽き飽きしてるだけだから。
「カスクが最も優先するのは確かな安全性、そこから性能やデザインを検討します」
話を戻しましょう。MIPSのようなシステムの情報については混乱されていることが多いです。まず、主な認証基準はオーストラリア(AS/NZS)、アメリカ(CPSC)、ヨーロッパ(CE EN)の3つですが、MIPSのようなテクノロジーは認証基準からは認められていない事実もあります。MIPS搭載ヘルメットは従来のテストを通過し安全基準を満たしていますが、MIPSによる安全性向上の測定は、正式に認められたテストではできていないんです。
実は数年前、MIPSはヨーロッパのサイクリングアソシエーション(協会)に認めてもらえるように申し込んでいたのですが、断られていたんです。
安全性が第一なのは間違いないですし、他のブランドの開発は非常に尊敬しています。ただカスクとして優先しているのは法律で認められた認証基準を使うことです。法律的に決められたテストで効果が検証できないので、MIPSをカスクのヘルメットに搭載する事は今のところ良いことではないと考えています。
―新しいテストが生まれることは無いのでしょうか。
サイクリング用品に限らず、ヨーロッパの安全基準に変更が必要になる時は、既存のものでは安全性が確保できない時にEU委員会の担当者から要求されます。しかし、ローテーションテストに関しては、政治的な方面と、テスト手法を決定するメーカー、テスト機関から求められることが今までありませんでした。そのような所で認められないMIPSをカスクは認めることができないのです。
最新プロダクトのUTOPIAはクラシックレースのために開発したという
PROTONEはオールラウンドに活躍してくれる
MOJITO Xなど様々なレベルのヘルメットが用意されている
オフロード系にも今後注力していくという
―MIPSについてのご意見ありがとうございます。今後のカスクはどうなっていくでしょうか。
設立当時からカスクは大きく変化し、この数年でロードヘルメットに関しては知名度が高くなりました。同時に会社としての規模も大きくなり、オーストラリアやアメリカに支社を立ち上げるに至っています。
アメリカのマーケットではオフロードが60%のシェアを占めていることがわかっているので、今後はオフロード向けの製品も開発を進めていきます。今年もオフロード系の新製品発表も控えていますし、是非注目してください。
ヨーロッパであればロードヘルメットが中心になるので、そこにおいても研究開発を止めることはありません。ロードに関しては数年のうちに3つ、そのうちの1つは来年のうちに出しますし。オンロードとオフロードのバランスが今後のカスクには必要になってくると思います。
「自分の身を守ることが最も大切なこと」
―ありがとうございます。日本のユーザーにメッセージをお願いします。
最初のメッセージは「安全性に気を使ってください」ですね。カスクを選ぶ、選ばないにしても、頭は非常に大切な部分ですので、ヘルメットとサングラスでしっかりと守ってください。そして、製品を買う前に自分に合うのかなど、全ての事をチェックしてください。
ヘルメットの信用性は、国際的に信用のある会社であるかどうかから来ていると信じています。国際的に販売されているヘルメットであれば各地域の安全基準は守られていますし、使用ユーザーが多いことも信用できる材料となるでしょう。絶対に安い製品と偽物を買わないでください。なによりも自分の身を守ることが先決ですから。
カスク UTOPIA (c)日直商会
カスク PROTONE (c)日直商会
カスク VALEGRO (c)日直商会
カスク MOJITO X (c)日直商会
工場は物を作る場所であり、性能を決定するのはR&Dである、と見学して実感することができた。世界の第一線で活躍しているプロダクトを生み出した開発者たちに尊敬の念を抱かずにいられようか。そんなことを考えたカスク工場見学であった。
続いてはゼネラルマネージャーのディエゴ・ザンボンさんのインタビューをお届けしよう。
カスクを率いるGMディエゴさんに聞くブランドのこと、最新テクノロジーのこと
―お時間をいただきありがとうございます。まず、カスク社として最も重要視していることは何でしょうか。カスクが最も大事にしているものは安全性で、開発を行う時も安全性の検討からスタートします。開発において最も難しいのは、安全性とサイクリングヘルメットに必要なベンチレーションなどとの性能のバランスを見つけることです。そこが新製品開発のポイントですね。
チームイネオスとのコラボレーションは重要なことで、最新プロダクトであるUTOPIAはミラノ~サンレモなどのクラシックレースのために開発しました。ポイントはスピードが求められますが、それと同じように通気性も重要です。エアロダイナミクスとベンチレーションのバランスを見つけることに注力しました。

PROTONEやVALEGROも同じようにプロ選手たちが着用するために作ったモデルです。ご存知の通り、PROTONEはツール・ド・フランスの多くのステージで使われており、ヒルクライムや平坦など様々な地形が現れる時に活躍してくれるオールラウンドヘルメットです。対してVALEGROは山岳ステージにフォーカスし、軽量性と通気性を追い求めたモデルですね。
ツールやジロで選手たちが着用しているヘルメットを見れば、それぞれに適した使用シチュエーションがわかります。ユーザーの皆さんも彼らの頭に注目してみてください。
―チームイネオスとはチーム設立時からの付き合いですが、どのような関係性を作り上げているのでしょうか。
チームイネオスとパートナーの関係性は少し特別で、サイクリング業界では例を見ないコラボレーションだと思っています。一般的なパートナーシップは、メーカーが製品を提案し、チームはそれを選択する形です。プロからのフィードバックを製品に反映させることはあると思いますが、チームは用意された選択肢からの中から良いものを選択するのです。
チームイネオスはパートナーを選び、メーカーはチームと共に要望に合わせたプロダクトを開発していくのです。その形は協業と言うよりは投資しているという形なのかもしれません。その結果、新しいプロダクトを生み出すことができているのですから。
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―新製品のチーム供給と販売開始のタイミングが1年ほど離れる理由はなぜですか。
チームが使用開始した後も継続的にフィードバックを受けながらブラッシュアップを続けているためです。最終的な製品となる時は、プロからの意見を反映させたものがユーザーの手に届けられるようになっています。それが着用開始と販売開始のタイミングに差が生まれる理由です。
―MIPSやWave Celのようにヘルメットにまつわる新しいテクノロジーの登場が目覚ましい昨今です。現在のヘルメットトレンドについてのお考えをお聞かせください。
数年前と比べるとヘルメットの形は大きく変わってきていて、以前のヘルメットは角が立ったデザインやロングテールデザインでした。ここでちょっとした自慢なんですけど、今の丸っこいデザインのヘルメットを最初に作り上げたのはカスクと言えます。
このトレンドを作ることができたのは、チームイネオスとのコラボレーションのおかげですね。チームの要望に応えられるパフォーマンスを備えたヘルメットを供給するために、そういった形となりました。
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もちろん高性能な製品をチームに渡すのは大事なことですが、開発においては安全性が第一です。セーフティでなければ、エアロダイナミクスなどのパフォーマンス向上のステップには進むことができません。そして最後のステップとしてデザインとなります。安全性、性能に妥協することなく、新しいデザインを生み出せたのは少し自慢ですね。
トレンドという面ではもうひとつ。10年ほど前までは、各ブランドは製品の数を絞り、自分たちの歴史やストーリーを語りながら製品を説明していました。最近のトレンドでは、特に大きな会社はユーザーに多くの選択肢を提供しようとヘルメットのラインアップを増やしています。様々なグレードであったり、各使用シチュエーションに合わせたモデルであったりと、多くの製品を用意しています。これが最近のヘルメットブランドの流れです。
で、MIPSとかの質問でしたっけ? あまり好きじゃないんですよね。
―失礼しました……
気にしないで(笑)。毎日のように質問されて飽き飽きしてるだけだから。
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話を戻しましょう。MIPSのようなシステムの情報については混乱されていることが多いです。まず、主な認証基準はオーストラリア(AS/NZS)、アメリカ(CPSC)、ヨーロッパ(CE EN)の3つですが、MIPSのようなテクノロジーは認証基準からは認められていない事実もあります。MIPS搭載ヘルメットは従来のテストを通過し安全基準を満たしていますが、MIPSによる安全性向上の測定は、正式に認められたテストではできていないんです。
実は数年前、MIPSはヨーロッパのサイクリングアソシエーション(協会)に認めてもらえるように申し込んでいたのですが、断られていたんです。
安全性が第一なのは間違いないですし、他のブランドの開発は非常に尊敬しています。ただカスクとして優先しているのは法律で認められた認証基準を使うことです。法律的に決められたテストで効果が検証できないので、MIPSをカスクのヘルメットに搭載する事は今のところ良いことではないと考えています。
―新しいテストが生まれることは無いのでしょうか。
サイクリング用品に限らず、ヨーロッパの安全基準に変更が必要になる時は、既存のものでは安全性が確保できない時にEU委員会の担当者から要求されます。しかし、ローテーションテストに関しては、政治的な方面と、テスト手法を決定するメーカー、テスト機関から求められることが今までありませんでした。そのような所で認められないMIPSをカスクは認めることができないのです。
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―MIPSについてのご意見ありがとうございます。今後のカスクはどうなっていくでしょうか。
設立当時からカスクは大きく変化し、この数年でロードヘルメットに関しては知名度が高くなりました。同時に会社としての規模も大きくなり、オーストラリアやアメリカに支社を立ち上げるに至っています。
アメリカのマーケットではオフロードが60%のシェアを占めていることがわかっているので、今後はオフロード向けの製品も開発を進めていきます。今年もオフロード系の新製品発表も控えていますし、是非注目してください。
ヨーロッパであればロードヘルメットが中心になるので、そこにおいても研究開発を止めることはありません。ロードに関しては数年のうちに3つ、そのうちの1つは来年のうちに出しますし。オンロードとオフロードのバランスが今後のカスクには必要になってくると思います。
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―ありがとうございます。日本のユーザーにメッセージをお願いします。
最初のメッセージは「安全性に気を使ってください」ですね。カスクを選ぶ、選ばないにしても、頭は非常に大切な部分ですので、ヘルメットとサングラスでしっかりと守ってください。そして、製品を買う前に自分に合うのかなど、全ての事をチェックしてください。
ヘルメットの信用性は、国際的に信用のある会社であるかどうかから来ていると信じています。国際的に販売されているヘルメットであれば各地域の安全基準は守られていますし、使用ユーザーが多いことも信用できる材料となるでしょう。絶対に安い製品と偽物を買わないでください。なによりも自分の身を守ることが先決ですから。
カスク・主要ロードヘルメットラインアップ
UTOPIA

サイズ | S、M、L |
重量 | 235g(Sサイズ) |
カラー | ORG/BLK、WHT、 BLK/YEL FLUO、 BLK/WHT、 BLK MATT |
価格 | 34,000円(税抜) |
PROTONE

サイズ | S、M、L |
重量 | 215g(Mサイズ) |
カラー | GIRO、BLK MATT、BLU MATT、 BLK、BLK/WHT、BLK/L.BLU、 BLK/RED、WHT、WHT/RED、 BORDAUX、BLU、L.BLU |
価格 | 30,000円(税抜) |
VALEGRO

サイズ | S、M、L |
重量 | 180g(Sサイズ) |
カラー | DOLOMITES, WHT, L.BLU, BLK, BLK MATT, ANT MATT, LIME, RED, NAVY BLU, BLU MATT |
価格 | 25,000円(税抜、一部除く) |
MOJITO X

サイズ | S、M、L、XL |
重量 | 220g(Mサイズ) |
カラー | WHT、WHT/ASH/ORG FLUO、L.BLU/WHT、IRIS/WHT、RED/WHT、LIME/WHT、BLK、BLK/WHT、BLK/ASH/L.BLU、BLK/ASH/RED、BLK/ASH/ORG FLUO、BLK MATT、 NAVY BLU/WHT、BLU MATT |
価格 | 19,500円(税抜、一部除く) |
提供:日直商会 取材:藤原岳人、ジョバンニ・サントロ 制作:シクロワイアード編集部