2016/02/23(火) - 09:02
1月23日(日)、神奈川県厚木市のウォークライドコンセプトストアにて開催された「下りが怖くなくなる!」セミナーに編集部がお邪魔してきました。ウォークライドの須田主任コーチが理論と実践の両面から下り方を教えてくれるセミナーの様子を紹介しましょう。
ウォークライドが主催した「下りが怖くなくなる!」セミナー
ロードバイクにはだいぶ乗りなれてきたけれど、長い下りは苦手という方は多いのではないだろうか。スピードが出てしまって怖い、ブレーキを握り続けているのが疲れるなどなど、人それぞれに下りが怖い理由はあるだろう。
そんな方たちへ向けて、安心して安全に下ることができるようになるためのセミナーがウォークライドの主催で行われた。ウォークライドは大磯クリテリウムや箱根ヒルクライムといったイベントを主催する一方、こういったライディングセミナーやフィッティングといった、自転車に乗るための環境造りも手掛けているのだ。今回の「下りが怖くなくなる!」セミナーは初めての開催となるが、これまでもコーナーリングやペダリングといったテーマを中心にいくつもセミナーを開催してきた実績がある。
ハンドルへの荷重についてレクチャー
それでは実践練習に出発だ!
下りの実践をするための山に向かって走っていく
講師を務めるのはウォークライド主任コーチである須田晋太郎さん。日本体育協会公認自転車競技コーチや国際マウンテンバイク協会のインストラクター資格などをもち、国民体育大会神奈川県代表監督を務める指導者である。
朝8時半、ウォークライドコンセプトストアには、10名ほどの下りに悩めるサイクリストたちが集まった。まずセミナーは、店内での座学から始まる。「下り方を教えます!」というセミナーであれば、速いラインの見つけ方やバイクの倒しこみ方といったテクニックを説明するものを想像しがちだが、ウォークライドのセミナーは一味違う。
まず、安全に下ることの重要性を説くことから、セミナーはスタートする。何を当たり前のことを、と思われる人もいるかもしれないが、そこには須田さんの、そしてウォークライドが掲げる理念がある。それは、「自転車という趣味を楽しみ続けてもらいたい」というものだ。
事故や落車が原因で自転車をやめてしまう人も多い中、できるだけそういった人たちを減らしたいという想いがこのセミナーの開催に結びついたという。なので、小手先のテクニックではなく、自転車がなぜ転んでしまうのか、どうすれば重心をコントロールできるのかという根本的な部分から講義は始まった。
正しい重心位置のお手本
前荷重になってしまった悪い見本
正しい重心バランスで乗れば、片手離しでも曲がっていける
川沿いの道で重心バランスの取り方を練習しながら進んでいく
重心をコントロールするための理論を実際にローラー台にかけられた自転車で実演しながらレクチャーしてくれるため、聞いていてもわかりやすく頭に入ってくる。受講者の方々も「すべてを吸収して帰る!」といわんばかりの集中した表情。
一通りの座学を終えたあとは、実践となる。川沿いのほとんど車が通らない農道で、さっそくバイクの中心に乗るための練習をしながら、山のほうへと走っていく。下る前には登る必要があるわけだが、その前に段差を利用して、下りでのポジションを体験することに。
予想以上に後ろへ体を動かすということに驚く受講者たち
実際に下りでのポジション位置を確認する
須田コーチとともに登っていく
峠のピークでこれまでのレクチャーをおさらい
下りでバランスをとるためには、思った以上に腰を後ろに引く必要があることを受講生のそれぞれが実感してから、セミナーのフィニッシュである下りへと向けて登っていく。3kmほどの登りをえっちらおっちら登っていきながら、登りでの体の使い方について須田さんに質問する熱心な人も。頂上に着いたあとは、もういちど今回のセミナーの内容についておさらいした後、下っていく。
曲率の高いコーナーやガレ場なども現れるコースは、レクチャーされたことを実践するにはおあつらえのフィールドだ。下りながら、それぞれの受講者のフォームや体の使い方を見ながら須田さんがアドバイスしてくれる。
バランスをとりながら下っていく須田コーチ
下りきったところで今日のセミナーについてまとめます
来た道をコンセプトストアまで戻る途中も、今日学んだことを復習しながら走る参加者も。いわば、基本の「キ」を教えてくれたセミナーであるが、それでも何を練習するか、どうやって練習するかを知らない多くのサイクリストにとっては非常に有益な時間となったようだ。
下りに不安を抱えているサイクリストはもちろん、今一度自分が正しく走れているのかを知りたい方にも、目からうろこの内容となったウォークライドのセミナー。このセミナーについて、講師を務められた須田コーチにお話を伺った。
―なぜ初心者向けの講習会を開催しようと思われたのでしょうか?
何はおいても、サイクルスポーツが日本に根づいて欲しいと考えているからですね。峠での事故やレースで落車が多いとよく聞きますし、実際に私たちが手掛ける大磯クリテリウムでも落車はかならずあります。落車してしまった人の技術が足りないということは簡単です。でも、どうすればその技術を習得できるのかという解決策はほとんどありません。
インタビューに答えてくれた須田コーチ それはスポーツサイクリング特有の空気感です。同じ乗り物で速さを競うという意味では、モータースポーツと非常に近いはずなのですが、免許を取ったからといって、「さあ、サーキットでタイムアタックするぞ!」とはならないし、そうならないようなシステム、技術を習得するための整備されている。翻って自転車を見ていると、基本的な乗り方を体系的に教えてくれる場所というものは非常に少ないですし、そもそもスポーツバイクと軽快車との差が認識されないままにブームが広まっている現状があります。
いわゆる「ママチャリ」感覚のままでスポーツバイクに乗る人が増えたということが、事故やレースでの落車が多くなってきている理由のひとつでしょう。実際、スポーツサイクリングというのは危険なスポーツですが、それはどんなスポーツでも同じです。
でも、目立ってしまって、問題視されると当局によって規制され、愛好者が減ってしまうことになる。そうならないために、出来るだけ安全に自転車を楽しむことが必要で、そのためにはある程度の技術を習得することが求められる。その第一歩をお伝えできればと、僕は考えているんです。
なので、今日のセミナーに来た人が自分のコミュニティに戻った時に、学んだことを広めてくれるといいですよね。初心者の人に正しいことを教えるということが広がれば、全体のレベルが上がっていき、マナーが良くなったり、事故が減ったりするはずです。
―なるほど。けして速く走るためのセミナーではないということですね。
受講者からの質問に親身に答える須田コーチ
受講者ひとりひとりの身体の使い方を注視する 速く走るためには基本的なことがしっかりできる必要があります。そういう意味では、速く下ることにつながっているとも言えます。ただ、ひとつ間違えないで欲しいのは、セミナーを受けたから下りが怖くなくなったり、安全に走れるようになったり、速くなったりするわけではないということです。
教本を読み、理論を学んでも、実際に自転車をコントロールすることができるかというと、ほとんどの人は出来ないでしょう。楽譜の読み方を知っていても、ピアノが弾けるようになるわけでは無いのと同じように、理解することと実際に身体が動くことの間には大きな隔たりがあります。ピアノを弾けるようになるためには、運指のトレーニングをしないといけないわけです。でも、なぜか自転車ということになると、みなさん本を読んで出来る気になってしまう。不思議ですよね(笑)
このセミナーは小手先のテクニックを口先で説明して終わり、というものではありません。基本中の基本である自転車のバランスのとり方を体験すること、そしてその練習法を覚えることがこのセミナーの目的です。練習の仕方を学ぶことができれば、技術を向上させていくことはできますから。そうして、基本を繰り返して身につけることで、できることの幅が広がっていくというステップを上がっていって欲しいですね。
―いろいろなコーチやセミナーがありますが、ウォークライドの特色はありますか?
ひとことでいえば、ふつうのコトを普通にやってくださいということですね。ウォークライドイズムは「普通」です。なにか特別な「須田メソッド」みたいな独自理論を持ち出すのではなくて、物理法則と生理学の範囲内の事をレクチャーするだけです。
―最後に、どういった方に受講して欲しいですか?
これは難しい話ではありますが、自分は乗れていると思っている人にこそ一度来てほしいですね。みなさん、自分のことを「飛びぬけて上手くはないけれど、転けたこともあんまりないしそこまで下手でもない」と思っている方が多いと思います。でも、実際は下りが怖いと感じている人と技術レベルはほぼ変わらなかったりします。
違いは、慣れているかいないか、恐怖心があるかないか、それだけの違いだったりするんですよね。ただ、これまで運良くブラインドコーナーの先に砂利が浮いていなかっただけだったり、前走者が斜行しなかっただけだったり、つまりは運良く失敗してこなかっただけなんです。自分が出来ると思っていることは練習しないですよね。なので、セミナーに来ることで自分が「出来ていない」ことに気づき、練習を始めるきっかけになれば嬉しいですね。
ライドに悩みがある人は、ウォークライドのセミナーを受講してみては?
text&photo:Naoki.YASUOKA

ロードバイクにはだいぶ乗りなれてきたけれど、長い下りは苦手という方は多いのではないだろうか。スピードが出てしまって怖い、ブレーキを握り続けているのが疲れるなどなど、人それぞれに下りが怖い理由はあるだろう。
そんな方たちへ向けて、安心して安全に下ることができるようになるためのセミナーがウォークライドの主催で行われた。ウォークライドは大磯クリテリウムや箱根ヒルクライムといったイベントを主催する一方、こういったライディングセミナーやフィッティングといった、自転車に乗るための環境造りも手掛けているのだ。今回の「下りが怖くなくなる!」セミナーは初めての開催となるが、これまでもコーナーリングやペダリングといったテーマを中心にいくつもセミナーを開催してきた実績がある。



講師を務めるのはウォークライド主任コーチである須田晋太郎さん。日本体育協会公認自転車競技コーチや国際マウンテンバイク協会のインストラクター資格などをもち、国民体育大会神奈川県代表監督を務める指導者である。
朝8時半、ウォークライドコンセプトストアには、10名ほどの下りに悩めるサイクリストたちが集まった。まずセミナーは、店内での座学から始まる。「下り方を教えます!」というセミナーであれば、速いラインの見つけ方やバイクの倒しこみ方といったテクニックを説明するものを想像しがちだが、ウォークライドのセミナーは一味違う。
まず、安全に下ることの重要性を説くことから、セミナーはスタートする。何を当たり前のことを、と思われる人もいるかもしれないが、そこには須田さんの、そしてウォークライドが掲げる理念がある。それは、「自転車という趣味を楽しみ続けてもらいたい」というものだ。
事故や落車が原因で自転車をやめてしまう人も多い中、できるだけそういった人たちを減らしたいという想いがこのセミナーの開催に結びついたという。なので、小手先のテクニックではなく、自転車がなぜ転んでしまうのか、どうすれば重心をコントロールできるのかという根本的な部分から講義は始まった。




重心をコントロールするための理論を実際にローラー台にかけられた自転車で実演しながらレクチャーしてくれるため、聞いていてもわかりやすく頭に入ってくる。受講者の方々も「すべてを吸収して帰る!」といわんばかりの集中した表情。
一通りの座学を終えたあとは、実践となる。川沿いのほとんど車が通らない農道で、さっそくバイクの中心に乗るための練習をしながら、山のほうへと走っていく。下る前には登る必要があるわけだが、その前に段差を利用して、下りでのポジションを体験することに。




下りでバランスをとるためには、思った以上に腰を後ろに引く必要があることを受講生のそれぞれが実感してから、セミナーのフィニッシュである下りへと向けて登っていく。3kmほどの登りをえっちらおっちら登っていきながら、登りでの体の使い方について須田さんに質問する熱心な人も。頂上に着いたあとは、もういちど今回のセミナーの内容についておさらいした後、下っていく。
曲率の高いコーナーやガレ場なども現れるコースは、レクチャーされたことを実践するにはおあつらえのフィールドだ。下りながら、それぞれの受講者のフォームや体の使い方を見ながら須田さんがアドバイスしてくれる。


来た道をコンセプトストアまで戻る途中も、今日学んだことを復習しながら走る参加者も。いわば、基本の「キ」を教えてくれたセミナーであるが、それでも何を練習するか、どうやって練習するかを知らない多くのサイクリストにとっては非常に有益な時間となったようだ。
下りに不安を抱えているサイクリストはもちろん、今一度自分が正しく走れているのかを知りたい方にも、目からうろこの内容となったウォークライドのセミナー。このセミナーについて、講師を務められた須田コーチにお話を伺った。
―なぜ初心者向けの講習会を開催しようと思われたのでしょうか?
何はおいても、サイクルスポーツが日本に根づいて欲しいと考えているからですね。峠での事故やレースで落車が多いとよく聞きますし、実際に私たちが手掛ける大磯クリテリウムでも落車はかならずあります。落車してしまった人の技術が足りないということは簡単です。でも、どうすればその技術を習得できるのかという解決策はほとんどありません。

いわゆる「ママチャリ」感覚のままでスポーツバイクに乗る人が増えたということが、事故やレースでの落車が多くなってきている理由のひとつでしょう。実際、スポーツサイクリングというのは危険なスポーツですが、それはどんなスポーツでも同じです。
でも、目立ってしまって、問題視されると当局によって規制され、愛好者が減ってしまうことになる。そうならないために、出来るだけ安全に自転車を楽しむことが必要で、そのためにはある程度の技術を習得することが求められる。その第一歩をお伝えできればと、僕は考えているんです。
なので、今日のセミナーに来た人が自分のコミュニティに戻った時に、学んだことを広めてくれるといいですよね。初心者の人に正しいことを教えるということが広がれば、全体のレベルが上がっていき、マナーが良くなったり、事故が減ったりするはずです。
―なるほど。けして速く走るためのセミナーではないということですね。


教本を読み、理論を学んでも、実際に自転車をコントロールすることができるかというと、ほとんどの人は出来ないでしょう。楽譜の読み方を知っていても、ピアノが弾けるようになるわけでは無いのと同じように、理解することと実際に身体が動くことの間には大きな隔たりがあります。ピアノを弾けるようになるためには、運指のトレーニングをしないといけないわけです。でも、なぜか自転車ということになると、みなさん本を読んで出来る気になってしまう。不思議ですよね(笑)
このセミナーは小手先のテクニックを口先で説明して終わり、というものではありません。基本中の基本である自転車のバランスのとり方を体験すること、そしてその練習法を覚えることがこのセミナーの目的です。練習の仕方を学ぶことができれば、技術を向上させていくことはできますから。そうして、基本を繰り返して身につけることで、できることの幅が広がっていくというステップを上がっていって欲しいですね。
―いろいろなコーチやセミナーがありますが、ウォークライドの特色はありますか?
ひとことでいえば、ふつうのコトを普通にやってくださいということですね。ウォークライドイズムは「普通」です。なにか特別な「須田メソッド」みたいな独自理論を持ち出すのではなくて、物理法則と生理学の範囲内の事をレクチャーするだけです。
―最後に、どういった方に受講して欲しいですか?
これは難しい話ではありますが、自分は乗れていると思っている人にこそ一度来てほしいですね。みなさん、自分のことを「飛びぬけて上手くはないけれど、転けたこともあんまりないしそこまで下手でもない」と思っている方が多いと思います。でも、実際は下りが怖いと感じている人と技術レベルはほぼ変わらなかったりします。
違いは、慣れているかいないか、恐怖心があるかないか、それだけの違いだったりするんですよね。ただ、これまで運良くブラインドコーナーの先に砂利が浮いていなかっただけだったり、前走者が斜行しなかっただけだったり、つまりは運良く失敗してこなかっただけなんです。自分が出来ると思っていることは練習しないですよね。なので、セミナーに来ることで自分が「出来ていない」ことに気づき、練習を始めるきっかけになれば嬉しいですね。

text&photo:Naoki.YASUOKA
リンク
Amazon.co.jp