2015/11/28(土) - 09:33
今年で3回目を迎えたツール・ド・富士川。前回のレポートに引き続き、走りごたえのあるコースに「こしべんと」など、より充実した内容のエイドステーションが待ちうける後半の様子をお届けします。
スリップ防止のために赤色の舗装がストライプの様に入る激坂
休憩ポイントの駐車場で息を整えるも、既に足がいっぱいという
一旦休憩できる駐車場に避難していく人々
日蓮宗総本山である身延山・久遠寺の三門を越えた先に現れたのは、まさに「壁」。今年の世界選手権でサガンがアタックを決めたシーンが勝手に脳内で再生されるような、そんな強烈なイメージを想起させる激坂が目の前に立ちはだかる。一緒に走ってきたみなさんも「うわぁ」という反応。
蛇行する人はまだ良い方で、3割くらいの人は押すことに。撮影のために一旦下りてしまうと、途中に駐車場が設けられたヘアピン以外では再乗車は難しく、私もハイカーの仲間入りだ。乗って登るのも相当な辛さだが、押して登っても辛いほどの坂。取材なのでMTBシューズだからまだ歩きやすいのが幸いしているが、ロード用シューズだとクリートの分更に斜度がプラスされるわ、そもそも歩きづらいわで大変だ。
沿道で応援してくれるおばちゃんず
押して歩くのすら辛い。そんな強烈な坂だ
参加者を励ましながら登る今中さん。流石の一言である。
登り切った先は久遠寺の境内。ここは全員が押して歩きます
そんな中でも、身軽に登っていく人がいたりしてつくづく自転車というものの奥深さを感じさせられる。道の脇では大会スタッフや地元のおばちゃんたちが「もう少し!」「頑張れ!頑張れ!」と応援してくれている中、久遠寺の境内へとなんとか入っていく。なんとか登り切った先の荘厳な雰囲気に満たされた境内で一旦乱れ切った息を整えて、再スタートを切っていく。
一番の難所を越えた後、更に少し登りが現れるが久遠寺を乗り越えた私達にとって怖い坂ではない。即席の修業の成果を見せるときだ。峠のピークを越え、国道52号への合流地点へと向けて下っていくころには、ぐずついていた空もすっかりと晴れ渡り、富士川を中心に広がる身延町の景観が広がるビューポイントも現れ、苦労して登ってきた甲斐もあろうというもの。
久遠寺を通り抜けると身延山を越える峠道に合流する
思わず写真を撮りたくなる。その気持ち、分かります。
途中、雲が散らされて、こんな素敵な景色が味わえる場面も
早川にかかる橋を渡っていく。鷹らしき猛禽類が空を飛んでいました。
第3エイドの手前に現れる丘を攻略中
少し国道52号を北上したのち、左折。早川を遡上していく。緩やかな登りを終えた後には、また素晴らしい風景が待っている。そして、もう一度富士川を渡り、丘を越えていくと第3エイドである久那土中はすぐそこだ。昼食会場でもあるこのエイドでは、地元の食材をふんだんに使用した「こしべんと」が振る舞われることとなっている。
今年はおかめ鮨さんによるアカネマスのマリネを主軸にした野菜が中心のもの、割烹とりしんさんによるさつま芋ごはんに信玄鶏の肉団子をはじめとしたおかずが揃ったもの、そして山女の南蛮揚げを使った山女さんどの3種類が用意され、好きなものを選ぶことができた。ちなみに私は山女さんどをチョイス。山女の調理法としてはなかなか見ない料理だが、これがどうしておいしくて、あっという間に平らげてしまった。
アカネマスのマリネが目を引くおかめ鮨さんによるこしべんと
こちらの割烹とりしんさんによるこしべんとはサツマイモごはんがおいしそうだ
渓流の女王 山女をサンドイッチにしたこしべんと
山女サンドをがぶり
久那土中学校の体育館が第3エイドとなっている
体育館で好きなこしべんとをいただきます
さて、お腹がいっぱいになって、脚も回復してきたところで再スタートだ。ここから先は身延町から市川三郷町へとつながる峠を越えて行くことになる。久遠寺は斜度こそキツかったものの、距離はさほどでもなかったが、この登りは7kmで約400mを登る本格的な峠。ところどころに現れる集落が姿を消し、完全に山中へと入ったあたりでは最大10%の坂も現れる。
しかしここでも、グループはまとまって走っており、一人で登っている人はほとんどおらず。他の大会であればバラバラになってしまうところを、よく統率がとれた状態で走っているのは、やはりこの大会の最も特筆すべき特長だろう。標高を上げていくと、ふたたび眼下に富士川を、そして南アルプスを遠望できるスポットも。
山の中の空気を味わいながら標高を上げていく
フォームの実地指導をしながら登りをこなす今中さん
すっかり晴れ渡った空の下、峠を進んでいく
下りだす前には一旦集合してから、グループごとに出発していく
ピークでは再び下山グループが形成され、サポートライダーの誘導の下、安全な速度で下っていく。かなりテクニカルなセクションもあったが、大きな落車がなかったのはひとえにこの体制のおかげだといえるだろう。ルートを知り尽くした先導ライダーのおかげで、マージンを保った下り方が出来るのは、見知らぬ峠の下りでは非常に安心できるもの。
下り終えるとすぐに第4エイドの源氏の館に到着。こちらでは高級フルーツである「レインボーレッド」とコロッケが振る舞われる。レインボーレッドとは、富士川の下流に位置する静岡県富士市にて生まれたキウイの品種。
普通はキウイと言えば緑の果肉で甘酸っぱい果物を想像するだろうが、レインボーレッドは赤い果肉でとても甘味が強い。歯ごたえも柔らかく、まるで別の果物のよう。ちなみに通常のキウイの約2倍の価格で取引される高級品でもある。そんなレインボーレッドを丸ごと一ついただけるというのだから、こんなに嬉しいことはない。
手作りコロッケとレインボーレッドが振る舞われました
通常のキウイに対して2倍の値が付く高級品種レインボーレッド
写真を撮るその先に写っているのは?
なんとくっきりとした虹が!これは嬉しいサプライズ
そんな高級フルーツをいただいて、出発した私達に更なるサプライズが。市川三郷の市街を見下ろすことができる高台にあるエイドから下っていくと、くっきりとした虹が現れたのだ。思わず自転車を止めて記念撮影する人も。甲府盆地に架かる七色の橋を堪能したら、富士川大橋を渡って道の駅ふじかわへと向かう。
ここから先、最後のエイドであるみさき耕舎までは山岳ヒルクライムチャレンジ区間として、タイム計測区間となっている。とはいっても、チップで計測するわけではなく参加者それぞれがサイクルコンピューターで計測するというゆるーいタイムトライアル。しかも、登るか登らないかは自由に選べ、ここまでで体力が尽きてきた人はそのままゴールしてしまっても大丈夫という親切設計なのだ。
富士川大橋を渡っていく。この先、ショートカットする人はすぐにゴールだ
ショートカットせずにヒルクライムチャレンジへと向かう参加者を応援する
ヒルクライムチャレンジのスタート。各自サイクルコンピューターなどで時間をはかる
九十九折れながら高度を上げていく
ヒルクライムチャレンジのスタート地点で、参加者は一旦停止。サイクルコンピューターのラップをリセットしてから、それぞれ思い思いにスタートしていく。最初は勾配も緩めであるが、森の中に入っていくと平均で7%程度の坂が続くように。いくつかの九十九折れを越えると、集落が現れるのだが、本当につらいのはこのセクションだ。集落を縫うように走るコースは最大で15%程の斜度となり、脚自慢の参加者たちを苦しめる。
一方で、ここまできた人達には特別なご褒美もまた用意されている。どんよりと雲がかかった朝が嘘のように晴れ渡った空の向こうには、富士山が姿を現していた。九十九折れを行くと自然と目に入ってくるその姿に、苦しく喘ぎながらも感嘆の声をあげるクライマー達。
富士山を背負いながら頂上目指して登っていく
富士山を眼前に望みながら最後の力を振り絞って登ります
ヒルクライムチャレンジを終えれば最高の景色が待っている
頂上ではラフランスがふるまわれました
もちろん登り切ったら記念撮影です!
ああ、こうやって苦しさと楽しさが紐付けされていって、人は坂バカになっていくんだろなあ、なんてことを考えながらえっちらおっちら登っていくと、高校生たちが「あと少し!頑張れー!」と声をかけてくれる。そこからは本当に短く、200mほどでみさき耕舎エイドに到着だ。
ラ・フランスと、レモン水が振る舞われるこちらのエイドでは、続々と走り終えた参加者たちが雪崩こんでくる。息を荒げながら出し切った様子の人、結構余裕を残している人、登ってきた時の様子は人それぞれだけれど、エイドから見える景色には皆一様に感激しているよう。スタッフによる記念撮影も行われており、富士山をバックに写真を撮る人が大勢いた。
さて、ここまでくればあとは来た道を下ってゴール地点へと向かうだけ。富士川沿いの河川敷を走り、ゴールゲートをくぐると、大会スタッフ達が拍手で迎えてくれる。ゴール地点でもある道の駅富士川では、下りで少し冷えてしまった身体を温めてくれる「みみ」が用意されている。
薄暮の中フィニッシュゲートをくぐる
表彰式に集まったみなさんで記念写真
独特なかたちのみみほうとう
フィニッシュ後にはあったかいみみが用意されていました
「みみ」とは山梨名物ほうとうの一種で、生地が麺ではなく脱穀などに使う箕(み)のような形にされている、和製ショートパスタのようなもの。ちなみにイタリアでも似たような形のショートパスタがあり、オレッキエッテというのだが、そちらは「耳たぶ」という意味らしい。以上、豆知識でした。
さて、具だくさんのみみほうとうをいただいて身体もあったまれば、あとは帰るだけとなる。周りには温泉が沢山あるので、ひと汗流して帰るのにも困ることは無い。眺望もよく、車も少なく、走りごたえのある道が沢山めぐらされた富士川流域の魅力を余すところなく味わえるツール・ド・富士川。
大会を支えてくださったスタッフのみなさん。来年も素敵な大会を作ってくださるハズだ
エイドでは、地元の季節のグルメも堪能できるし、なんといってもサポート体制がしっかりとしているので、少し厳しい坂もあるけれど初心者でも安心して走ることができるので、イベントデビューにもぴったりだろう。紅葉が綺麗な秋の魅力がこの大会では味わえたが、桜や桃が花開く春の顔も見てみたい。
text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO,Naoki.YASUOKA
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蛇行する人はまだ良い方で、3割くらいの人は押すことに。撮影のために一旦下りてしまうと、途中に駐車場が設けられたヘアピン以外では再乗車は難しく、私もハイカーの仲間入りだ。乗って登るのも相当な辛さだが、押して登っても辛いほどの坂。取材なのでMTBシューズだからまだ歩きやすいのが幸いしているが、ロード用シューズだとクリートの分更に斜度がプラスされるわ、そもそも歩きづらいわで大変だ。
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一番の難所を越えた後、更に少し登りが現れるが久遠寺を乗り越えた私達にとって怖い坂ではない。即席の修業の成果を見せるときだ。峠のピークを越え、国道52号への合流地点へと向けて下っていくころには、ぐずついていた空もすっかりと晴れ渡り、富士川を中心に広がる身延町の景観が広がるビューポイントも現れ、苦労して登ってきた甲斐もあろうというもの。
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今年はおかめ鮨さんによるアカネマスのマリネを主軸にした野菜が中心のもの、割烹とりしんさんによるさつま芋ごはんに信玄鶏の肉団子をはじめとしたおかずが揃ったもの、そして山女の南蛮揚げを使った山女さんどの3種類が用意され、好きなものを選ぶことができた。ちなみに私は山女さんどをチョイス。山女の調理法としてはなかなか見ない料理だが、これがどうしておいしくて、あっという間に平らげてしまった。
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しかしここでも、グループはまとまって走っており、一人で登っている人はほとんどおらず。他の大会であればバラバラになってしまうところを、よく統率がとれた状態で走っているのは、やはりこの大会の最も特筆すべき特長だろう。標高を上げていくと、ふたたび眼下に富士川を、そして南アルプスを遠望できるスポットも。
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下り終えるとすぐに第4エイドの源氏の館に到着。こちらでは高級フルーツである「レインボーレッド」とコロッケが振る舞われる。レインボーレッドとは、富士川の下流に位置する静岡県富士市にて生まれたキウイの品種。
普通はキウイと言えば緑の果肉で甘酸っぱい果物を想像するだろうが、レインボーレッドは赤い果肉でとても甘味が強い。歯ごたえも柔らかく、まるで別の果物のよう。ちなみに通常のキウイの約2倍の価格で取引される高級品でもある。そんなレインボーレッドを丸ごと一ついただけるというのだから、こんなに嬉しいことはない。
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ここから先、最後のエイドであるみさき耕舎までは山岳ヒルクライムチャレンジ区間として、タイム計測区間となっている。とはいっても、チップで計測するわけではなく参加者それぞれがサイクルコンピューターで計測するというゆるーいタイムトライアル。しかも、登るか登らないかは自由に選べ、ここまでで体力が尽きてきた人はそのままゴールしてしまっても大丈夫という親切設計なのだ。
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一方で、ここまできた人達には特別なご褒美もまた用意されている。どんよりと雲がかかった朝が嘘のように晴れ渡った空の向こうには、富士山が姿を現していた。九十九折れを行くと自然と目に入ってくるその姿に、苦しく喘ぎながらも感嘆の声をあげるクライマー達。
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ラ・フランスと、レモン水が振る舞われるこちらのエイドでは、続々と走り終えた参加者たちが雪崩こんでくる。息を荒げながら出し切った様子の人、結構余裕を残している人、登ってきた時の様子は人それぞれだけれど、エイドから見える景色には皆一様に感激しているよう。スタッフによる記念撮影も行われており、富士山をバックに写真を撮る人が大勢いた。
さて、ここまでくればあとは来た道を下ってゴール地点へと向かうだけ。富士川沿いの河川敷を走り、ゴールゲートをくぐると、大会スタッフ達が拍手で迎えてくれる。ゴール地点でもある道の駅富士川では、下りで少し冷えてしまった身体を温めてくれる「みみ」が用意されている。
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「みみ」とは山梨名物ほうとうの一種で、生地が麺ではなく脱穀などに使う箕(み)のような形にされている、和製ショートパスタのようなもの。ちなみにイタリアでも似たような形のショートパスタがあり、オレッキエッテというのだが、そちらは「耳たぶ」という意味らしい。以上、豆知識でした。
さて、具だくさんのみみほうとうをいただいて身体もあったまれば、あとは帰るだけとなる。周りには温泉が沢山あるので、ひと汗流して帰るのにも困ることは無い。眺望もよく、車も少なく、走りごたえのある道が沢山めぐらされた富士川流域の魅力を余すところなく味わえるツール・ド・富士川。
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text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO,Naoki.YASUOKA
Amazon.co.jp