2012/05/07(月) - 14:29
朝6時の気温は0度。昼間には最高9度まで上がったものの、相変わらず冷たさに芯のある風が吹く。「この辺りはいつも強い風が吹く。これは吹いていないようなもの」と、中学生ぐらいの少年が流暢な英語で説明してくれる。
決して平坦ではない地形 海から吹く風
国土の最も高い場所が標高159mであると聞いて、てっきりデンマークは真っ平らな国だと想像していた。でも実際は、標高50〜100mほどの丘陵がユトランド半島の大半を占めている。規模は小さいが、氷河に起因するフィヨルド地形も存在する。
ちょうどユトランド半島のど真ん中にあるヘルニングを発ち、同半島の西部をぐるっと回ってヘルニングに戻る第2ステージ。コースプロフィールを見ると真っ平らだが、実際は緩いアップダウンを繰り返す。
一帯は風が強い地域として知られているようで、海の近くには多くの風力発電が競うようにして立っている。もう5月だというのに葉を落としたままの寂しげな広葉樹や、サンタクロースが似合いそうな針葉樹が、申し合わせたかのようにみんな傾いて生えている。
コースマップを眺めると、前半はかなり海岸に近い直線路を通っている。この海に近い平坦路が、第2ステージ最大の難所と予想されたが、幸いなことに強風は吹かなかった。
その問題の海岸線に近い平坦路に行って見る。砂が積もってできた土手によって、海と内陸が隔てられている。土手のてっぺんから見ると、陸地のほうが海より低い。内陸側を走るコースは土手によって海風が遮られているものの、それでもスタート地点ヘルニング周辺よりも風は強い。
海から吹く冷たい風が、内地で暖められた空気とぶつかり、混ざり合ってモヤモヤを作り出す。望遠レンズで遠くを眺めると、まるでモザイクがかかったような風景が広がる。そんな中をプロトンが進んでくる。
スプリント狙いのチームだけでなく、普段平坦コースでは姿を見せないリクイガス・キャノンデールやアスタナといった総合狙いのチームまで、積極的に集団前方で隊列を組む。いつもより風が弱いとは言え、グランツール最初のロードステージ特有の緊張感によって落車が多発した。
ラジオコルサ(競技無線)から聞こえてくるのは「何番が落車。どのチームの誰」という情報ばかり。「落車、グリーンエッジ」と聞こえてくるだけで結構心拍数が上昇する。この日だけで、確認されるだけでも20名を超える選手が落車している。
落車多発のゴール前 「踏めている」と話すフミ
落車の混乱は、ゴール直前にも起こった。まずは、ゴールまで8kmを残した地点での、マリアローザの落車。前日に歓喜のステージ優勝を飾った21歳のテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)が単独で落車した。
レース後の記者会見でフィニーは「前を走る選手が何らかの理由でブレーキング。そこでバランスを崩し、転んでしまった」と、その時の状況を説明する。
すぐに立ち上がったマリアローザは、落ちたチェーンを戻して再スタート。チームメイトの力を借りて何とか集団に復帰し、事なきを得た。「僅か1秒の間に事件は起こる。それがサイクリング。ゴールラインが見えたとき、ようやく落ち着くことが出来た」。フィニーはマリアローザを守ることに成功している。
そしてもう一つの混乱は、最終ストレートに向かうラスト500mのコーナーで発生した。ハイスピードで突入したコーナーで、テオ・ボス(オランダ、ラボバンク)がオーバーランして落車し、後続が次々に突っ込んだ。
カチューシャのアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)らのバイクが飛び交う中を、マシュー・ゴス(オーストラリア)の位置取りのために集団前方にいた別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、間一髪すり抜けた。
落車によってばらばらになった集団の前方、19位でゴールしたフミは「終盤のコーナーで後ろに下がってしまったゴスを、集団の前に連れて行った。チームは良く動いてたけど、まとまって走れていなかった。他のチームメイトがゴスの周りにいなかったので、手助けは出来たと思う」と話す。
オリカ・グリーンエッジにとって、チーム結成後初のグランツール集団スプリント。ゴスは結果的にステージ2位に終わったが、チームとして次に繋がる走りを見せた。「調子はとても良い。踏めている」とフミ。
続く第3ステージも大きな登りの無い平坦コース。スプリント第2ラウンドが、ユトランド半島東部のホルセンスで繰り広げられる。選手や関係者のレース後の移動を考えて、スタート時間とゴール時間がいつもより早めに設定されている。レース前には、昨年大会の第3ステージで亡くなったワウテル・ウェイラント(ベルギー)に捧げる1分間の黙祷が予定されている。
text&photo:Kei Tsuji in Herning, Denmark
決して平坦ではない地形 海から吹く風
国土の最も高い場所が標高159mであると聞いて、てっきりデンマークは真っ平らな国だと想像していた。でも実際は、標高50〜100mほどの丘陵がユトランド半島の大半を占めている。規模は小さいが、氷河に起因するフィヨルド地形も存在する。
ちょうどユトランド半島のど真ん中にあるヘルニングを発ち、同半島の西部をぐるっと回ってヘルニングに戻る第2ステージ。コースプロフィールを見ると真っ平らだが、実際は緩いアップダウンを繰り返す。
一帯は風が強い地域として知られているようで、海の近くには多くの風力発電が競うようにして立っている。もう5月だというのに葉を落としたままの寂しげな広葉樹や、サンタクロースが似合いそうな針葉樹が、申し合わせたかのようにみんな傾いて生えている。
コースマップを眺めると、前半はかなり海岸に近い直線路を通っている。この海に近い平坦路が、第2ステージ最大の難所と予想されたが、幸いなことに強風は吹かなかった。
その問題の海岸線に近い平坦路に行って見る。砂が積もってできた土手によって、海と内陸が隔てられている。土手のてっぺんから見ると、陸地のほうが海より低い。内陸側を走るコースは土手によって海風が遮られているものの、それでもスタート地点ヘルニング周辺よりも風は強い。
海から吹く冷たい風が、内地で暖められた空気とぶつかり、混ざり合ってモヤモヤを作り出す。望遠レンズで遠くを眺めると、まるでモザイクがかかったような風景が広がる。そんな中をプロトンが進んでくる。
スプリント狙いのチームだけでなく、普段平坦コースでは姿を見せないリクイガス・キャノンデールやアスタナといった総合狙いのチームまで、積極的に集団前方で隊列を組む。いつもより風が弱いとは言え、グランツール最初のロードステージ特有の緊張感によって落車が多発した。
ラジオコルサ(競技無線)から聞こえてくるのは「何番が落車。どのチームの誰」という情報ばかり。「落車、グリーンエッジ」と聞こえてくるだけで結構心拍数が上昇する。この日だけで、確認されるだけでも20名を超える選手が落車している。
落車多発のゴール前 「踏めている」と話すフミ
落車の混乱は、ゴール直前にも起こった。まずは、ゴールまで8kmを残した地点での、マリアローザの落車。前日に歓喜のステージ優勝を飾った21歳のテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)が単独で落車した。
レース後の記者会見でフィニーは「前を走る選手が何らかの理由でブレーキング。そこでバランスを崩し、転んでしまった」と、その時の状況を説明する。
すぐに立ち上がったマリアローザは、落ちたチェーンを戻して再スタート。チームメイトの力を借りて何とか集団に復帰し、事なきを得た。「僅か1秒の間に事件は起こる。それがサイクリング。ゴールラインが見えたとき、ようやく落ち着くことが出来た」。フィニーはマリアローザを守ることに成功している。
そしてもう一つの混乱は、最終ストレートに向かうラスト500mのコーナーで発生した。ハイスピードで突入したコーナーで、テオ・ボス(オランダ、ラボバンク)がオーバーランして落車し、後続が次々に突っ込んだ。
カチューシャのアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)らのバイクが飛び交う中を、マシュー・ゴス(オーストラリア)の位置取りのために集団前方にいた別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、間一髪すり抜けた。
落車によってばらばらになった集団の前方、19位でゴールしたフミは「終盤のコーナーで後ろに下がってしまったゴスを、集団の前に連れて行った。チームは良く動いてたけど、まとまって走れていなかった。他のチームメイトがゴスの周りにいなかったので、手助けは出来たと思う」と話す。
オリカ・グリーンエッジにとって、チーム結成後初のグランツール集団スプリント。ゴスは結果的にステージ2位に終わったが、チームとして次に繋がる走りを見せた。「調子はとても良い。踏めている」とフミ。
続く第3ステージも大きな登りの無い平坦コース。スプリント第2ラウンドが、ユトランド半島東部のホルセンスで繰り広げられる。選手や関係者のレース後の移動を考えて、スタート時間とゴール時間がいつもより早めに設定されている。レース前には、昨年大会の第3ステージで亡くなったワウテル・ウェイラント(ベルギー)に捧げる1分間の黙祷が予定されている。
text&photo:Kei Tsuji in Herning, Denmark
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