荒天のなか開催された最終日の太地ステージ。西谷泰治(愛三レーシングチーム)がゴールラインを切る前に、最終機関車の盛一大がガッツポーズするほどの完璧な勝利だった。総合成績では圧勝だったNIPPOに対し、ステージ2勝で日本人選手の力を見せたのは愛三工業レーシングだ。

海沿いをニュートラル走行海沿いをニュートラル走行 photo:Hideaki.TAKAGI
5月29日(日)4日間のツール・ド・熊野最終日は、和歌山県太地町の太地半島周回コースが舞台だ。当日は台風の影響で朝から強い雨が断続的に降る。風こそ弱いものの、昼にかけてさらに風雨が強まる予報がでていた。結局コースは10周から6周へ短縮。さらに最初の1周をニュートラル走行としてコースを確認することに変更された。このため山岳賞とホットスポットは設定されないことになった。

3賞ジャージはこのままキープされることに3賞ジャージはこのままキープされることに photo:Hideaki.TAKAGI実業団E1は辻浦圭一が総合優勝
朝からは3日間通して行われている実業団レースが、同じコースで次々にゴール。E1クラスは辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカーMTB)が、常に逃げる積極的な展開でステージ2勝、総合優勝した。女子のF1クラスは第2ステージで差をつけた針谷千紗子(サイクルベースあさひレーシング)が総合優勝。第3太地ステージを制した高橋奈美(Vitesse-Serotta-Femin)は総合2位に。高橋は大震災に見舞われた宮城県在住。練習もままならない環境だったと市川雅敏監督は語る。スプリントで針谷を下した価値は大きい。なお、第1ステージはノーレースとなった。


4周目、KOMの上り、ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOがミゲール・ルビアーノ・チャベス先頭にコントロール4周目、KOMの上り、ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOがミゲール・ルビアーノ・チャベス先頭にコントロール photo:Hideaki.TAKAGIUCIレースは60kmに短縮
UCIレースは短縮され6周60kmのレースに。最初の1周はニュートラル走行なので、実質50kmのレースだ。コースはアップダウンとコーナーが連続する区間、平坦の直線区間などバラエティに富んだ10kmの周回コース。

スタートが切られるとダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO勢が集団をコントロールする。ときおり散発的なアタックはかかるが、すべて吸収される。このチェックにはNIPPOのアシスト陣はもちろん、リーダーのフォルトゥナート・バリアーニ自身も入る。一人のアタックならば無視するほどの圧倒的存在感でレースを進める。

最終周回へ、ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOが菊池誠晃先頭にコントロール。伊藤雅和(愛三レーシングチーム)も加わる最終周回へ、ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOが菊池誠晃先頭にコントロール。伊藤雅和(愛三レーシングチーム)も加わる photo:Hideaki.TAKAGI終始速めのペースでコントロールするNIPPO勢に、他チームはしだいに手が出せない状況に。コントロールには愛三レーシングメンバーや福島晋一(トレンガヌ・サイクリングチーム)も入り、ゴールスプリント狙いを主張する。NIPPOは総合死守とステージ狙い、愛三はチームでステージ狙い、そして福島は単独でステージを狙うのだ。

最終周回になってもこの構図は崩れず、ゴール前はNIPPOと愛三工業の戦いに。ゴール前150mでNIPPOのスプリンター、マキシミリアーノ・リケーゼが大きく外から仕掛ける。愛三工業は品川真寛そして最終機関車の盛一大にリードされた西谷泰治がど真ん中からスプリントを開始。西谷とリケーゼの一騎打ちを、あっさりと西谷が下し優勝した。愛三は第1ステージの福田真平に続いて今大会ステージ2勝を挙げた。

ゴールスプリントを西谷泰治(愛三レーシングチーム)が制するゴールスプリントを西谷泰治(愛三レーシングチーム)が制する photo:Hideaki.TAKAGI

「日本人選手の意地」優勝の西谷泰治(愛三レーシングチーム)
雄たけびを上げてゴールを通過する西谷。こんな西谷を国内で見るのは、2009年の全日本選手権ロードで優勝して以来だ。チームメイトやスタッフと握手を交わす西谷。「今まで、特に昨日の第2ステージは外国人選手に表彰台を独占されるなど、やられてきた。今日はリケーゼとの1対1の戦いに勝った。熊野は日本のレース。だから日本人選手が頑張らねば。意地を見せたかった。嬉しい」と語る。

個人総合時間賞と山岳賞ははバリアーニが守りきり、ポイント賞は西谷が獲得。西谷は個人総合3位にも食い込んだ。
また、実業団Jプロツアーでもある今大会で上位完走した澤田賢匠(CIELVO NARA PRO CYCLINGTEAM)は総合リーダーに返り咲いた。

マッサーの元へ向かう西谷泰治(愛三レーシングチーム)マッサーの元へ向かう西谷泰治(愛三レーシングチーム) photo:Hideaki.TAKAGINIPPO対国内選手の戦いだった熊野
今年の熊野はダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOの世界レベルの別格の強さを見せ付けられたレースだった。そこへ一矢を報いたのはステージ2勝の愛三レーシングチーム。特に西谷と盛のスピードは、NIPPO勢を上回っていた。アジアツアーでの戦いの成果が熊野でも発揮された。

そしてそのNIPPOでも佐野淳哉が中心選手の一人として互角に走ったことは誇らしく感じられる。惜しかったのは第2ステージでの落車だ。落車で遅れて一人で追いついた後の千枚田の上りで、下から仕掛けて下りきるまでに独走状態に持ち込めるだけの脚があったのだ。ステージはもちろん総合でも3位以上が見えていただけに残念だ。

シマノレーシングは「一年生」の西薗良太と青柳憲輝が各ステージで積極的に動いて存在感を示した。個々の力はあるが、チームで勝つための動きに、結果としてまとまれなかったのが課題だろう。

この2人でステージ2勝を挙げたこの2人でステージ2勝を挙げた photo:Hideaki.TAKAGIステージ表彰。辻善光(宇都宮ブリッツェン)が3位に食い込むステージ表彰。辻善光(宇都宮ブリッツェン)が3位に食い込む photo:Hideaki.TAKAGI個人総合時間賞、左から3位西谷泰治(愛三レーシングチーム)、優勝フォルトゥナート・バリアーニ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)、2位ミゲール・ルビアーノ・チャベス(同)個人総合時間賞、左から3位西谷泰治(愛三レーシングチーム)、優勝フォルトゥナート・バリアーニ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)、2位ミゲール・ルビアーノ・チャベス(同) photo:Hideaki.TAKAGI4日間とも雨に降られ続けた今年の熊野。ツアー・オブ・ジャパンは開催されなかったが、いっぽうで外国のチーム・選手たちが参戦し積極的に動いたこの大会。NIPPO対国内選手たちの激しい攻防はきわめて内容の濃いものに。今大会に出た、少なくとも西谷、盛、佐野は世界レベルで戦える選手であることは間違いない。

結果 第3ステージ 太地半島周回コース 60km
1位 西谷泰治(愛三レーシングチーム)1時間30分36秒
2位 マキシミリアーノ・リケーゼ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)
3位 辻善光(宇都宮ブリッツェン)
4位 盛一大(愛三レーシングチーム)
5位 鈴木真理(シマノレーシング)
6位 青柳憲輝(シマノレーシング)
7位 品川真寛(愛三レーシングチーム)
8位 廣瀬佳正(宇都宮ブリッツェン)
9位 野中竜馬(鹿屋体育大学)
10位 フォルトゥナート・バリアーニ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)

個人総合時間賞 最終結果
1位 フォルトゥナート・バリアーニ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)6時間58分07秒
2位 ミゲール・ルビアーノ・チャベス(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)+04秒
3位 西谷泰治(愛三レーシングチーム)+40秒 
4位 マキシミリアーノ・リケーゼ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)+44秒
5位 品川真寛(愛三レーシングチーム)+57秒
6位 福島晋一(トレンガヌ・サイクリングチーム)+59秒
7位 ジェイ・クロフォード(ジャイアント・ケンダ・サイクリングチーム)+1分00秒
8位 ユン・イン・ホン(香港チーム)+1分01秒
9位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)+1分02秒
10位 青柳憲輝(シマノレーシング)+1分24秒

個人総合ポイント賞
1位 西谷泰治(愛三レーシングチーム)64点
2位 マキシミリアーノ・リケーゼ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)46点
3位 ミゲール・ルビアーノ・チャベス(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)36点

個人総合山岳賞
1位 フォルトゥナート・バリアーニ(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)17点
2位 ミゲール・ルビアーノ・チャベス(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)15点
3位 山本元喜(鹿屋体育大学)7点

団体総合時間賞
1位 ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO 20時間55分30秒
2位 シマノレーシングチーム +5分33秒
3位 愛三レーシングチーム +8分22秒

photo&text:高木秀彰

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