スタート地点はマッダローニ。ゴミ処理が問題になっている、と言ったら印象が悪いので、ピッツァ発祥の地とされるナポリから北に40kmほど行った平野にその街はある。街自体はお世辞にもキレイとは言えず、プレス関係者用の駐車場にも怪しげなおじさんがウロウロ。レース主催者は警察や警備員の数を増やしていた。

ジロ・デ・イタリアを迎えるマッダローニの街ジロ・デ・イタリアを迎えるマッダローニの街 photo:Kei Tsuji観戦に訪れている観客は賑やかだ。活き活きとしていて威勢がいい。

おじさんがクリスティアーノ・サレルノ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)を捕まえて「おい、ニーバリ!写真を撮ろう!」と肩を組む。サレルノが「俺、ニーバリじゃないんだ、ごめん」と控えめに言うと「構うもんか!」と笑いかける。観客のアグレッシブさに戸惑いを見せる海外選手も多くいた。

容赦なくヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)を囲む観客たち容赦なくヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)を囲む観客たち photo:Kei Tsujiヴィラッジョのスポンサーブースで、ガゼッタ紙を手に取ると、一面に「エトナ火山に挑戦するジロ」という文字が躍っていた。ページをめくると「エトナがジロを驚かす」の文字。そう、今年1月に噴火したシチリア島のエトナ火山が、今週水曜日の夜に再び噴火。ヨーロッパ最大の活火山の噴火は、広域に渡って火山灰をまき散らした。

当然火山灰は第9ステージのコースにも降り積もった。しかし100人の作業員を動員したおかげで、すでに250トンもの火山灰をコースから掃き出したという。選手たちが第9ステージ後に飛行機を乗る予定のカターニア空港も滑走路に火山灰が積もった影響で一時閉鎖されたが、金曜日の朝6時に離発着を再開している。

ガゼッタ紙はエトナ火山噴火の動向を伝えるガゼッタ紙はエトナ火山噴火の動向を伝える photo:Kei Tsuji確実に選手が飛行機に乗るためにスタート時間が予定より30分早められたが、それ以外は特に問題がない。実際ゴール地点は標高1992mで、標高3350mの火口からは離れている。火山活動が再開しない限り第9ステージは問題なく行なわれる予定だ

さて、ここまで200kmを超えるステージが続いていたのに、第7ステージは110km。グランツールとしては異例の短さだと言える。コースの途中で撮影しているとゴールに間に合わないので、スタート写真だけ撮影して慌ただしくゴール地点のモンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノを目指した。

正式なスタート地点に向かって進むプロトン正式なスタート地点に向かって進むプロトン photo:Kei Tsuji高速道路で飛ばすこと40分。アヴェリーノ・オヴェスト(西口)で高速を下りて下道へ。白い石灰岩が顔を覗かせる急峻な山が、アヴェリーノの街を見下ろしている。新緑の樹々に覆われたその白い山こそが、この日のゴール地点モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノだ。

山頂近くの標高1260m地点にはキリスト教の聖地「サントゥアリオ・ディ・モンテヴェルジネ」があり、2級山岳の登りはそこへの巡礼路。合計22カ所のスイッチバックが、切り立った山肌を登っていく。

急勾配の登りを進むケーブルカー急勾配の登りを進むケーブルカー photo:Kei Tsuji山そのものは急峻だが、スイッチバックのおかげで登りの勾配は緩い。麓にあるメルコリアーノの街から、5〜6%の勾配が17kmに渡って続く。「クライマーの闘い、第一ラウンド」という見出しを用意したガゼッタ紙によると、レースはここを平均30km/hで登るという。ドロミテやアルプスの山岳と比べると、難易度は遥かに低い。トップ選手は所要時間30分ちょっとで登り切ってしまう。

だがチームスタッフやプレス関係者にとっては、このモンテヴェルジネは厄介者。頂上付近の駐車スペースが限られているため、チームスタッフやプレス関係者はフニコラーレ(ケーブルカー)に乗って頂上を目指さなければならないのだ。

モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノの頂上付近で選手を待つモンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノの頂上付近で選手を待つ photo:Kei Tsuji1926年に開通したというフニクラーレの線路が、天に向かって山肌を真っすぐに貫いていた。標高500mのメルコリアーノから、標高1260mの頂上まで、フニコラーレだと所要時間は7分。関係者でぎゅうぎゅう詰めになった車両は、比較的スムーズに頂上まで連れて行ってくれた。

標高があるだけに、汗ばむ陽気の下界とは空気が違う。涼しげな風が吹き、太陽の暖かさを有り難く感じるぐらいの気温。地元の観客たちに、ダミアーノ・クネゴ(イタリア)とダニーロ・ディルーカ(イタリア)がモンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノで勝った過去の大会ことを聞きながら、プロトンの到着を待った。

逃げるバルト・デクレルク(ベルギー、オメガファーマ・ロット)と追うメイン集団逃げるバルト・デクレルク(ベルギー、オメガファーマ・ロット)と追うメイン集団 photo:Kei Tsujiスイッチバックの登りを進む選手たちの動きに合わすように、遠くから中継ヘリが左右に揺れながらやってくる。バルト・デクレルク(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が飛び出していたことは知っていたが、まさかゴールまで逃げ切るとは思っていなかった。それは本人も同様で、レース後の会見で「ラスト8kmで飛び出した時は、勝てるとは思っていなかった」と語る。

観客は一様に「デクレルクって誰だ?」という表情をする。それもそのはず、デクレルクは今年プロ入りしたばかりのルーキー選手だ。

独走でゴールに向かうバルト・デクレルク(ベルギー、オメガファーマ・ロット)独走でゴールに向かうバルト・デクレルク(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsujiデクレルクは会見の最初に「この勝利をワウテル(ウェイラント)と彼の家族に捧げたい」と語気を強めた。ヘントの大学を出ているデクレルクだが、ネオプロだけに、ヘント出身のウェイラントとの親交は薄かったと言う。「ワウテルは30kmほど離れたところに住んでいた。それほど面識がなく、ジロの開幕地トリノで少し話した程度だった。彼の死は悲し過ぎる」。

プロ1年目で出場した初めてのグランツールでプロ初勝利。本命選手たちが第9ステージのエトナ火山に向けて互いをマークする中で、その隙を突く見事な勝利だった。

7分57秒遅れでゴールに向かう別府史之(日本、レディオシャック)7分57秒遅れでゴールに向かう別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsuji別府史之(レディオシャック)は、レース序盤のアタック合戦に加わったものの、決定的な逃げには乗れず。ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック)のサポート任務を解かれたフミは、攻撃的な走りが許可されている。

「できる限り前の集団でゴールしたい」と話していたフミが7分57秒遅れのグループでゴールに向かうのを確認してから、大混雑が予想されるフニコラーレの乗り場を目指していると、15分以上遅れてゴールに向かうグルペットと遭遇。翌日の第8ステージでは、再びスプリンターたちの出番が回ってくる。

第8ステージのゴール地点トロペアは、海に突き出した崖の上にある。カテゴリー山岳無しの真っ平らなステージだが、ラスト2kmから1kmに渡って7.8%の勾配が続く。またまたスプリンターたちのボヤキが聞こえてきそうなレイアウト。大集団によるスプリントには持ち込まれないとジャーナリストたちは見ている。

text:Kei Tsuji in Mercogliano, Italy

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