2010/11/19(金) - 09:16
ホビーレースの最高峰、おきなわ市民210kmを制したのはなるしまフレンドの岩島啓太。並み居る強豪を倒しての初制覇は、チームメイトの小畑郁とのワンツーフィニッシュだった。市民王者の岩島自信が綴る、レースのインサイドレポートだ。
ビデオでコースをシュミレーション
「210kmに延長されたコースは想像よりも厳しく、ここをどうこなすかが勝負の分かれ道になる」。
レース前日、そう考えながら私はあらかじめビデオに撮っておいた新コースの延長部分を何度も見返していた。試走する時間が無い為、暗くなる前に車でコースの下見をする際に、コースをビデオに撮った。ライバル達からアドバンテージを得るには、準備をしすぎるに越したことは無い。
コースも頭に叩き込み、自転車の整備も、体調も万全だ。
先月宇都宮で行われたジャパンカップのオープンレースで負け、悔しい思いをしてから三週間、この日のために毎日のように練習してきた。今回は負けたくない。
当日、目が覚めると、昨日の嵐のような天気とは打って変わって穏やかな天候。
ペンションでおいしい朝食をいただき、車で15分ほど走り会場入りする。
補給はジェルの入ったミニボトル2本にゼリー2つ、他にBCAAの錠剤をポケットに詰める。
忘れ物を車まで取りに行っていたら、既に整列が終わっていた。そのまま400名の参加者の最後尾でスタートした。
早期に絞られた有力選手グループ
スタート後、普久川ダムの登りまでの70kmは平坦基調なので、落車に巻き込まれないように神経を尖らせながら集団の中ほどで省エネ走法。
登り口が近づき、向かい風で集団の速度が緩んだのを見計らって一気に先頭に出る。そのまま登りに突入する。前半はオーベストの西谷雅史選手の一本牽き。後半はMaxSpeed'97の森本選手が牽き、頂上を迎える。かなり速いペースに感じたが、なんとかついていけた。
周りを見回すと人数はかなり絞られていて20名ほどの集団が出来上がっていた。
下りもペースが落ちることはなくローテーションもキレイに回る。皆足のある選手が揃っていて、気持ちの良いスピードで海岸沿いを進む。願ってもない展開だ。そのまま後続が合流することもなく、二回目の普久川ダムの登りに入る。
二回目の登りも一回目と同じくらいのペースで進む。ただ一回目に比べてやけに楽に感じた。勝負はまだ先になると思っていたので、ペースを合わせて無理せずに登る。
頂上付近でチームCBの高橋選手が山岳賞狙いで一人抜け出し、そのまま次の安波の登り返しまで逃げ続ける。この局面で足がかなり残っている様子だ。警戒しなければ。
図らずも、この時点で勝負をする相手が絞られた。西谷雅史選手、森本誠選手、高橋義博選手(チームCB)、高岡亮寛選手(イナーメ・アイランド信濃山形)、白石真悟選手(シマノドリンキング)、そしてチームメイトの小畑郁選手。
珍しく相手の足の残り具合をみる余裕がある。高岡選手、高橋選手がちょっとした登りで、ふるい落としのペースアップをかけてくる。すかさず真っ先に反応し、「絶対に逃がさない」という気持ちでぴたりとマークする。私が勝負に出ようと思っているところはまだ先だ。
勝負は羽地ダムへの上り坂
慶佐次を越え、延長区間の新コースに入る。コースもしっかり覚えていて、ほぼ予想通りのメンバーでこの局面を迎えたので自分でも驚くぐらい落ち着いている。坂をいくつか越えて最後の勝負どころ、羽地ダムの登りに差し掛かる。
ここまで皆ほぼ均等に先頭交代をしてきて最後の力勝負に出る。先頭で登りに入り、ここで仕掛けてくるであろう森本選手、高岡選手のアタックを警戒していたが、一向に気配が無い。中腹でチラッと後ろを確認したが、姿が無い!? 予想外の展開だ。
ここまでレースをガンガンリードしてきた西谷選手も少し後ろでペダリングが苦しそうだ。
ここで引き離さない手はない。ここにきてはじめて左の腸腰筋あたりがピクッと攣りそうになったが、別の部分の筋肉を総動員してちょっとだけペースアップ。その結果、高橋選手、小畑さん、私の3人になった。
ダム周りのアップダウンをこなし、平坦まで下ってきたときには後ろが視認できないくらい離れていた。
ついに勝負が3人に絞られた!
高橋選手の力は未知数だが、パワー系の小畑さんと私は平坦とスプリントに少し自信がある。だが私は、レース前からアタックポイントを決めていた。残り5km地点にある「ジャスコの坂」だ。ここは2004年にチャンピオンクラスで香港のワンカンポ選手がアタックを決めた場所で、その鋭いアタックに憧れていた。
「アタックします。後ろをお願いします」と小畑さんに耳打ちし、ローテーション短めに最後の坂を待つ。もしつかまっても、なるしまフレンドチームの勝利は間違いないだろう。
坂が見えてきた。足が無いときは高く感じたが、今見ると案外低い。3人はかなりいいスピードで坂を登りはじめる。なかなかスピードが落ちない、タイミングを見計らっているうちに頂上に差し掛かりそうだ。そのときにほんの少しスピードが緩んだ。
「今だ!」
全力を使い最初で最後のアタックを敢行する。
後ろを振り返る余裕は無い。
だが後ろは小畑さんがいるので安心だ。
ただただ、持てる限りの力を搾り出し、ペダルに伝える。
距離を重ねるごとに48km/hから徐々に速度が低下していく。
「後続と10秒」
途中、インフォモトからタイム差を伝えられる。
すごく苦しいが、最後までペダルを踏み続ける。
ゴールが見えてきた。後ろを見て勝利を確信した。
夢に見た市民210kmの勝利
そして、はじめてガッツポーズでゴール。
最後は全力を出し尽くして清々しい気持ちで優勝できた。
ゴール後、仲間の皆から祝福の言葉をもらって、徐々にこの夢のようなツール・ド・おきなわ優勝の実感が沸いてきた。
5年前に運よく3位に入賞してから、年々優勝したいという気持ちが強くなっていた。
強豪レーサー達が切磋琢磨して、近年非常にレベルが高くなってきている市民210km。
そのレースで最高の結果を出せて、感無量の一言だ。
来年もまたこの素晴らしいコースで、素晴らしいライバル達と闘い、優勝できるよう精進していきたいと思います。
岩島啓太(なるしまフレンド)
市民レース210km 結果
1位 岩島啓太(なるしまフレンドレーシングチーム) 5時間25分04秒
2位 小畑郁(なるしまフレンドレーシングチーム)+7秒
3位 高橋義博(チームCB)+23秒
4位 西谷雅史(チームオーベスト)+1分36秒
5位 高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)+3分28秒
6位 森本誠(MaxSpeed'97)+5分35秒
7位 白石真悟(シマノドリンキング)+6分08秒
8位 清宮洋幸(竹芝サイクルレーシング)+12分46秒
9位 山本雅之(ブリヂストンサイクル西日本)
10位 青木峻二(CUBE)
text:keita.IWASHIMA
photo:Makoto.AYANO,Hideaki.TAKAGI
ビデオでコースをシュミレーション
「210kmに延長されたコースは想像よりも厳しく、ここをどうこなすかが勝負の分かれ道になる」。
レース前日、そう考えながら私はあらかじめビデオに撮っておいた新コースの延長部分を何度も見返していた。試走する時間が無い為、暗くなる前に車でコースの下見をする際に、コースをビデオに撮った。ライバル達からアドバンテージを得るには、準備をしすぎるに越したことは無い。
コースも頭に叩き込み、自転車の整備も、体調も万全だ。
先月宇都宮で行われたジャパンカップのオープンレースで負け、悔しい思いをしてから三週間、この日のために毎日のように練習してきた。今回は負けたくない。
当日、目が覚めると、昨日の嵐のような天気とは打って変わって穏やかな天候。
ペンションでおいしい朝食をいただき、車で15分ほど走り会場入りする。
補給はジェルの入ったミニボトル2本にゼリー2つ、他にBCAAの錠剤をポケットに詰める。
忘れ物を車まで取りに行っていたら、既に整列が終わっていた。そのまま400名の参加者の最後尾でスタートした。
早期に絞られた有力選手グループ
スタート後、普久川ダムの登りまでの70kmは平坦基調なので、落車に巻き込まれないように神経を尖らせながら集団の中ほどで省エネ走法。
登り口が近づき、向かい風で集団の速度が緩んだのを見計らって一気に先頭に出る。そのまま登りに突入する。前半はオーベストの西谷雅史選手の一本牽き。後半はMaxSpeed'97の森本選手が牽き、頂上を迎える。かなり速いペースに感じたが、なんとかついていけた。
周りを見回すと人数はかなり絞られていて20名ほどの集団が出来上がっていた。
下りもペースが落ちることはなくローテーションもキレイに回る。皆足のある選手が揃っていて、気持ちの良いスピードで海岸沿いを進む。願ってもない展開だ。そのまま後続が合流することもなく、二回目の普久川ダムの登りに入る。
二回目の登りも一回目と同じくらいのペースで進む。ただ一回目に比べてやけに楽に感じた。勝負はまだ先になると思っていたので、ペースを合わせて無理せずに登る。
頂上付近でチームCBの高橋選手が山岳賞狙いで一人抜け出し、そのまま次の安波の登り返しまで逃げ続ける。この局面で足がかなり残っている様子だ。警戒しなければ。
図らずも、この時点で勝負をする相手が絞られた。西谷雅史選手、森本誠選手、高橋義博選手(チームCB)、高岡亮寛選手(イナーメ・アイランド信濃山形)、白石真悟選手(シマノドリンキング)、そしてチームメイトの小畑郁選手。
珍しく相手の足の残り具合をみる余裕がある。高岡選手、高橋選手がちょっとした登りで、ふるい落としのペースアップをかけてくる。すかさず真っ先に反応し、「絶対に逃がさない」という気持ちでぴたりとマークする。私が勝負に出ようと思っているところはまだ先だ。
勝負は羽地ダムへの上り坂
慶佐次を越え、延長区間の新コースに入る。コースもしっかり覚えていて、ほぼ予想通りのメンバーでこの局面を迎えたので自分でも驚くぐらい落ち着いている。坂をいくつか越えて最後の勝負どころ、羽地ダムの登りに差し掛かる。
ここまで皆ほぼ均等に先頭交代をしてきて最後の力勝負に出る。先頭で登りに入り、ここで仕掛けてくるであろう森本選手、高岡選手のアタックを警戒していたが、一向に気配が無い。中腹でチラッと後ろを確認したが、姿が無い!? 予想外の展開だ。
ここまでレースをガンガンリードしてきた西谷選手も少し後ろでペダリングが苦しそうだ。
ここで引き離さない手はない。ここにきてはじめて左の腸腰筋あたりがピクッと攣りそうになったが、別の部分の筋肉を総動員してちょっとだけペースアップ。その結果、高橋選手、小畑さん、私の3人になった。
ダム周りのアップダウンをこなし、平坦まで下ってきたときには後ろが視認できないくらい離れていた。
ついに勝負が3人に絞られた!
高橋選手の力は未知数だが、パワー系の小畑さんと私は平坦とスプリントに少し自信がある。だが私は、レース前からアタックポイントを決めていた。残り5km地点にある「ジャスコの坂」だ。ここは2004年にチャンピオンクラスで香港のワンカンポ選手がアタックを決めた場所で、その鋭いアタックに憧れていた。
「アタックします。後ろをお願いします」と小畑さんに耳打ちし、ローテーション短めに最後の坂を待つ。もしつかまっても、なるしまフレンドチームの勝利は間違いないだろう。
坂が見えてきた。足が無いときは高く感じたが、今見ると案外低い。3人はかなりいいスピードで坂を登りはじめる。なかなかスピードが落ちない、タイミングを見計らっているうちに頂上に差し掛かりそうだ。そのときにほんの少しスピードが緩んだ。
「今だ!」
全力を使い最初で最後のアタックを敢行する。
後ろを振り返る余裕は無い。
だが後ろは小畑さんがいるので安心だ。
ただただ、持てる限りの力を搾り出し、ペダルに伝える。
距離を重ねるごとに48km/hから徐々に速度が低下していく。
「後続と10秒」
途中、インフォモトからタイム差を伝えられる。
すごく苦しいが、最後までペダルを踏み続ける。
ゴールが見えてきた。後ろを見て勝利を確信した。
夢に見た市民210kmの勝利
そして、はじめてガッツポーズでゴール。
最後は全力を出し尽くして清々しい気持ちで優勝できた。
ゴール後、仲間の皆から祝福の言葉をもらって、徐々にこの夢のようなツール・ド・おきなわ優勝の実感が沸いてきた。
5年前に運よく3位に入賞してから、年々優勝したいという気持ちが強くなっていた。
強豪レーサー達が切磋琢磨して、近年非常にレベルが高くなってきている市民210km。
そのレースで最高の結果を出せて、感無量の一言だ。
来年もまたこの素晴らしいコースで、素晴らしいライバル達と闘い、優勝できるよう精進していきたいと思います。
岩島啓太(なるしまフレンド)
市民レース210km 結果
1位 岩島啓太(なるしまフレンドレーシングチーム) 5時間25分04秒
2位 小畑郁(なるしまフレンドレーシングチーム)+7秒
3位 高橋義博(チームCB)+23秒
4位 西谷雅史(チームオーベスト)+1分36秒
5位 高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)+3分28秒
6位 森本誠(MaxSpeed'97)+5分35秒
7位 白石真悟(シマノドリンキング)+6分08秒
8位 清宮洋幸(竹芝サイクルレーシング)+12分46秒
9位 山本雅之(ブリヂストンサイクル西日本)
10位 青木峻二(CUBE)
text:keita.IWASHIMA
photo:Makoto.AYANO,Hideaki.TAKAGI
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