ツール・ド・熊野の第3ステージは、レース中盤に形成された先頭集団が逃げ切り、ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)が優勝。総合首位争いは、先頭集団のメンバーにバーチャルリーダーが移る展開となったものの、メイン集団が最終周回でタイム差を詰め、ネイサン・アール(チーム右京)が僅差で首位を守り切って総合優勝を決めた。
ツール・ド・熊野最終日の各賞ジャージラインナップ 写真左から、新人賞の湯浅博貴(ヴィクトワール広島)、ポイント賞の窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)、総合首位のネイサン・アール(チーム右京)、山岳賞の山本大喜(キナンレーシングチーム) photo:Satoru Kato
2019年大会時は化粧直し中だった「第一京丸」が綺麗になってお出迎え photo:Satoru Kato
第3ステージはくじらの町・太地町が舞台 photo:Satoru Kato
ツール・ド・熊野最終日は、紀伊半島の南端に近い太地町が舞台。港町に設定された1周10.5kmの周回コースを走る104.3kmのレースでフィナーレを迎える。
第2ステージまでを終えての個人総合優勝争いは、首位のネイサン・アール(チーム右京)と2位の小林海(マトリックスパワータグ)との差が5秒。3位以下、レオネル・アレクサンダー・キンテロ・アルテアーガ(マトリックスパワータグ)、山本大喜(キナンレーシングチーム)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)、松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)らが6秒差で並ぶ。
第3ステージは2回の中間スプリントポイントが設定され、通過順上位3名に3秒、2秒、1秒のボーナスタイムが与えられ、フィニッシュでは、10秒、6秒、4秒が与えられる。中間スプリントを2回とも1位通過してステージ優勝すれば、計16秒のボーナスタイムを獲得できるため、逆転優勝も可能だ。とは言え、総合順位に関係なく最後のステージ優勝を狙うチームや選手の思惑もあり、神経質なレース展開となることが予想された。
青い海の太地港を横目に登る集団 photo:Satoru Kato
太地漁港を抜けていく集団 photo:Satoru Kato
太地漁港内をぐるっと回るコースは今年も健在 photo:Satoru Kato
最終日も朝から青空が広がり、ほぼ真夏日の暑さ。3年ぶりのツール・ド・熊野を天が祝福してくれたのか、でも雨が無いと物足りない気がするという天の邪鬼な声も聞こえる中、レースはスタートした。
リアルスタート直後からのアタック合戦 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)が飛び出す photo:Satoru Kato
2周目終了時のスプリントポイントに向けてチームブリヂストンサイクリングが主導権を握る photo:Satoru Kato
スタート直後からアタックが繰り返される中、2周目完了時に設定された1回目の中間スプリントポイントに向けてチームブリヂストンサイクリングが動いた。集団前方を固めてペースアップし、松田祥位を先頭通過させる。リーダージャージのアールが3位通過となり、これにより松田がアールとの差を2秒縮め、4秒差の総合2位に浮上する。
レース中盤に形成された10名の先頭集団 photo:Satoru Kato
その直後、3周目に入ったところで、7名が先行。4周目に入ると3名が追走して合流し、10名の先頭集団が形成される。メンバーは、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)、フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)、西尾憲人(那須ブラーゼン)、横山航太、中井唯晶(以上シマノレーシング)、ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)、入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)、山田拓海(エカーズ)、孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)。
リーダージャージのネイサン・アール(チーム右京)は集団内に留まる photo:Satoru Kato
レース終盤 愛三工業レーシングチームが集団をペースアップさせる photo:Satoru Kato
メイン集団との差は1分20秒ほどまで開き、バーチャルリーダーは先頭集団にいてトップから46秒差の横山に移る。レース後半に入ると愛三工業レーシングチームがメイン集団をペースアップさせ、残り2周となる9周目までに30秒差まで縮める。その後チーム右京がコントロールを受け継ぐが、差は再び1分近くまで開いて最終周回へ入る。
リーダージャージのネイサン・アールはチームメイトが前後を固める photo:Satoru Kato
残り2周 7名で逃げ続ける先頭集団 photo:Satoru Kato
阿部と孫崎が遅れて8名となった先頭集団では、門田と中井が抜け出しを図るも残り3kmを前に吸収。その後も勝負を決定づける動きとならないままスプリント勝負へ。緩やかな右カーブに先頭で現れたのはカバナ。マンセボと中井を従えたままフィニッシュラインを越え、歓喜のポーズを見せた。その7秒後、松田を先頭にメイン集団がフィニッシュ。アールも松田の直後でフィニッシュし、総合首位を守り切った。
ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)が優勝 photo:Satoru Kato
メイン集団は松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)を先頭にフィニッシュ photo:Satoru Kato
第3ステージ上位3名の表彰式 photo:Satoru Kato
ステージ優勝したカバナは「ツール・ド・熊野はとてもハードなレースだったが、その中でも第3ステージをターゲットとしていたので、優勝した上にグリーンジャージも獲得出来て本当に嬉しい。チームと応援してくれた皆さんに感謝したい」と、表彰式でコメントした。
個人総合優勝はネイサン・アール(チーム右京、中央)、2位 松田祥位(チームブリヂストンサイクリング、右)、3位 小林海(マトリックスパワータグ、左) photo:Satoru Kato
僅差の個人総合優勝争いを制したアールは、「とてもストレスフルな1日だったね」と、最終日を振り返る。
「個人総合順位争いが僅差だったので、中間スプリントには注意を払っていた。1回目は3位通過だったのでタイムを失ってしまったが、その後逃げ集団が形成されたことはラッキーだった。いつもなら逃げを捕まえに行くけれど、今日は捕まえたくなかった。なぜなら逃げ集団がボーナスタイムを取ってくれれば僕達に有利になるからね。終盤はアタックをチェックすることにチームも動いてくれた。おかげでリーダージャージを最後まで守り切ることが出来た。
ツアー・オブ・ジャパンとツール・ド・熊野で優勝出来たことは僕にとってもチームにとっても特別なことだし、夢が叶った。コロナ禍で2020年、2021年とレースに出られなかったけれど、今回ベストコンディションで日本に来て二つのレースで優勝出来たことは本当にスペシャルだ。チームには本当に感謝したい」と、語った。
ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)に続いて追走に出る横山航太(シマノレーシング) photo:Satoru Kato
個人総合2位で終えた松田祥位(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato
一方、先頭集団に入って一時バーチャルリーダーとなった横山は「最初の逃げに中井選手が乗って、(個人総合で)僕の20秒くらい後ろの門田選手も乗っていたので、これはまずいと思った。でもそこで焦らず一呼吸置いてマンセボ選手らのブリッジに反応して良い形で先頭集団に合流出来た。自分がバーチャルリーダーというのはわかっていたので総合優勝が頭の中でチラついていたけれど、最後は力が足りず差を詰められてしまった。
でもツアー・オブ・ジャパンが僕らは全然ダメだったので、少しは挽回出来たかなと。1ヶ月後の全日本選手権に向けて良いイメージは出来たと思う」と、次につながる結果になったと語った。
逆転優勝は逃したものの、個人総合を6位から一気に2位にジャンプアップさせた松田は「チームとしてステージ優勝もポイント賞も個人総合も獲るというチャレンジをした。最初の中間スプリントは僕がトップで窪木さんが2位で作戦通りだったが、逃げ集団が行ってしまって2回目の中間スプリントは無理なので、フィニッシュに備えることに切り替えた。でも最後まで詰め切れなかった」と、最終ステージを振り返った。
3年ぶりのツール・ド・熊野は、目まぐるしく変わるレース展開と個人総合順位により、緊張感の続く飽きない3日間となった。何よりも、3日間のうち必ず1日以上は悪天候に見舞われるツール・ド・熊野にあって、全日程晴天の下でレースが開催出来た奇跡にも恵まれた。そして国内有数のロケーションを誇るコース設定でレースが出来ることに改めて感謝し、今後も継続できることを願ってやまない。



ツール・ド・熊野最終日は、紀伊半島の南端に近い太地町が舞台。港町に設定された1周10.5kmの周回コースを走る104.3kmのレースでフィナーレを迎える。
第2ステージまでを終えての個人総合優勝争いは、首位のネイサン・アール(チーム右京)と2位の小林海(マトリックスパワータグ)との差が5秒。3位以下、レオネル・アレクサンダー・キンテロ・アルテアーガ(マトリックスパワータグ)、山本大喜(キナンレーシングチーム)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)、松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)らが6秒差で並ぶ。
第3ステージは2回の中間スプリントポイントが設定され、通過順上位3名に3秒、2秒、1秒のボーナスタイムが与えられ、フィニッシュでは、10秒、6秒、4秒が与えられる。中間スプリントを2回とも1位通過してステージ優勝すれば、計16秒のボーナスタイムを獲得できるため、逆転優勝も可能だ。とは言え、総合順位に関係なく最後のステージ優勝を狙うチームや選手の思惑もあり、神経質なレース展開となることが予想された。



最終日も朝から青空が広がり、ほぼ真夏日の暑さ。3年ぶりのツール・ド・熊野を天が祝福してくれたのか、でも雨が無いと物足りない気がするという天の邪鬼な声も聞こえる中、レースはスタートした。


スタート直後からアタックが繰り返される中、2周目完了時に設定された1回目の中間スプリントポイントに向けてチームブリヂストンサイクリングが動いた。集団前方を固めてペースアップし、松田祥位を先頭通過させる。リーダージャージのアールが3位通過となり、これにより松田がアールとの差を2秒縮め、4秒差の総合2位に浮上する。

その直後、3周目に入ったところで、7名が先行。4周目に入ると3名が追走して合流し、10名の先頭集団が形成される。メンバーは、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)、フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)、西尾憲人(那須ブラーゼン)、横山航太、中井唯晶(以上シマノレーシング)、ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)、入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)、山田拓海(エカーズ)、孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)。


メイン集団との差は1分20秒ほどまで開き、バーチャルリーダーは先頭集団にいてトップから46秒差の横山に移る。レース後半に入ると愛三工業レーシングチームがメイン集団をペースアップさせ、残り2周となる9周目までに30秒差まで縮める。その後チーム右京がコントロールを受け継ぐが、差は再び1分近くまで開いて最終周回へ入る。


阿部と孫崎が遅れて8名となった先頭集団では、門田と中井が抜け出しを図るも残り3kmを前に吸収。その後も勝負を決定づける動きとならないままスプリント勝負へ。緩やかな右カーブに先頭で現れたのはカバナ。マンセボと中井を従えたままフィニッシュラインを越え、歓喜のポーズを見せた。その7秒後、松田を先頭にメイン集団がフィニッシュ。アールも松田の直後でフィニッシュし、総合首位を守り切った。



ステージ優勝したカバナは「ツール・ド・熊野はとてもハードなレースだったが、その中でも第3ステージをターゲットとしていたので、優勝した上にグリーンジャージも獲得出来て本当に嬉しい。チームと応援してくれた皆さんに感謝したい」と、表彰式でコメントした。

僅差の個人総合優勝争いを制したアールは、「とてもストレスフルな1日だったね」と、最終日を振り返る。
「個人総合順位争いが僅差だったので、中間スプリントには注意を払っていた。1回目は3位通過だったのでタイムを失ってしまったが、その後逃げ集団が形成されたことはラッキーだった。いつもなら逃げを捕まえに行くけれど、今日は捕まえたくなかった。なぜなら逃げ集団がボーナスタイムを取ってくれれば僕達に有利になるからね。終盤はアタックをチェックすることにチームも動いてくれた。おかげでリーダージャージを最後まで守り切ることが出来た。
ツアー・オブ・ジャパンとツール・ド・熊野で優勝出来たことは僕にとってもチームにとっても特別なことだし、夢が叶った。コロナ禍で2020年、2021年とレースに出られなかったけれど、今回ベストコンディションで日本に来て二つのレースで優勝出来たことは本当にスペシャルだ。チームには本当に感謝したい」と、語った。


一方、先頭集団に入って一時バーチャルリーダーとなった横山は「最初の逃げに中井選手が乗って、(個人総合で)僕の20秒くらい後ろの門田選手も乗っていたので、これはまずいと思った。でもそこで焦らず一呼吸置いてマンセボ選手らのブリッジに反応して良い形で先頭集団に合流出来た。自分がバーチャルリーダーというのはわかっていたので総合優勝が頭の中でチラついていたけれど、最後は力が足りず差を詰められてしまった。
でもツアー・オブ・ジャパンが僕らは全然ダメだったので、少しは挽回出来たかなと。1ヶ月後の全日本選手権に向けて良いイメージは出来たと思う」と、次につながる結果になったと語った。
逆転優勝は逃したものの、個人総合を6位から一気に2位にジャンプアップさせた松田は「チームとしてステージ優勝もポイント賞も個人総合も獲るというチャレンジをした。最初の中間スプリントは僕がトップで窪木さんが2位で作戦通りだったが、逃げ集団が行ってしまって2回目の中間スプリントは無理なので、フィニッシュに備えることに切り替えた。でも最後まで詰め切れなかった」と、最終ステージを振り返った。
3年ぶりのツール・ド・熊野は、目まぐるしく変わるレース展開と個人総合順位により、緊張感の続く飽きない3日間となった。何よりも、3日間のうち必ず1日以上は悪天候に見舞われるツール・ド・熊野にあって、全日程晴天の下でレースが開催出来た奇跡にも恵まれた。そして国内有数のロケーションを誇るコース設定でレースが出来ることに改めて感謝し、今後も継続できることを願ってやまない。
ツール・ド・熊野2022 第3ステージ・太地半島周回コース 結果(104.3km)
1位 | ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島、オーストラリア) | 2時間33分2秒 |
2位 | フランシスコ・マンセボ・ペレス(マトリックスパワータグ、スペイン) | +0秒 |
3位 | 中井唯晶(シマノレーシング、日本) | |
4位 | 門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム、日本) | |
5位 | 山田拓海(エカーズ、日本) | |
6位 | 入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム、日本) | |
7位 | 横山航太(シマノレーシング、日本) | |
8位 | 松田祥位(チームブリヂストンサイクリング、日本) | |
9位 | 岡 篤志(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム、日本) | |
10位 | ネイサン・アール(チーム右京、オーストラリア) |
個人総合成績(第3ステージ終了時)
1位 | ネイサン・アール(チーム右京、オーストラリア) | 7時間43分9秒 |
2位 | 松田祥位(チームブリヂストンサイクリング、日本) | +4秒 |
3位 | 小林 海(マトリックスパワータグ、日本) | +6秒 |
4位 | 増田成幸(宇都宮ブリッツェン、日本) | +7秒 |
5位 | ホセ・ビセンテ・トリビオ・アルコレア(マトリックスパワータグ、スペイン) | +11秒 |
6位 | レオネル・アレクサンダー・キンテロ・アルテアーガ(マトリックスパワータグ、ベネズエラ) | +12秒 |
ポイント賞・山岳賞・チーム順位(第3ステージ終了時)
ポイント賞 | ||
1位 | ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島) | 30p |
2位 | 窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング、日本) | 28p |
3位 | フランシスコ・マンセボ・ペレス(マトリックスパワータグ) | 28p |
山岳賞 | ||
1位 | 山本大貴(キナンレーシングチーム、日本) | 20p |
2位 | レオネル・アレクサンダー・キンテロ・アルテアーガ(マトリックスパワータグ、ベネズエラ) | 12p |
3位 | ネイサン・アール(チーム右京、オーストラリア) | 10p |
チーム順位 | ||
1位 | マトリックスパワータグ | 23時間9分45秒 |
2位 | チーム右京 | +1分138秒 |
3位 | キナンレーシングチーム | +1分55秒 |
text&photo:Satoru Kato
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