2022/03/19(土) - 16:34
本日3月19日、イタリア北部を舞台とした第113回ミラノ〜サンレモが開催される。終盤のチプレッサとポッジオが鍵を握る世界最長293kmのレースを制するのはポガチャルかファンアールトか。急遽出場がきまったファンデルプールなど豪華面子が揃い踏みする決戦をプレビュー。
シーズン最初の「モニュメント(五大クラシック:サンレモ、ロンド、ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)」が、イタリア北部を走るミラノ〜サンレモ(UCIワールドツアー)。初開催は1907年まで遡る歴史深いワンデーレースは、イタリアに春の訪れを告げる「ラ・プリマヴェーラ(春)」の別称で愛されてきた。
コースはレース名の通りミラノからサンレモまで。正真正銘ミラノの中心地をスタートし、リグーリア海岸のサンレモまで約7時間かけて走りきる。その距離は現存するロードレースで最長の293km。これにアクチュアルスタートまでのパレード区間9.8kmが加わるため、選手たちは300kmを越える距離を走ることになる。
内陸部の大都市ミラノをスタート後、ロンバルディア平原を突っ切る前半部はひたすら平坦。広大な平原に別れを告げてトゥルキーノ峠(標高532m)を越えるとレースはいよいよ後半戦に入り、リグーリア海沿岸をひたすらサンレモまで突き進んでいく。
レースが慌ただしさを増すのが、残り60kmを切ってから登場するトレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタに差し掛かってから。さらにフィニッシュ27km手前からチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)とポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)を連続してクリアする。
ミラノ〜サンレモを「フィニッシュするのは容易いが、優勝するのは最も難しいレース」と言わしめるのが、このチプレッサとポッジオの存在だ。いずれも勾配や難易度はそれほど高くないものの、アタッカーによる攻撃と、食らいついてゴール勝負に持ち込みたいスプリンターチームが必死の追走を繰り広げる。
ポッジオ頂上から3.2kmのテクニカルなダウンヒルは、昨年ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)が独走に持ち込んだ場所。そしてサンレモの目抜き通りに引かれたフィニッシュラインまでの2.2km平坦で飛び出す選手が現れるか。はたまた集団スプリントになだれ込むのか。
アタッカーによる逃げ切りか、スプリンターによる集団バトルか
昨年ポッジオの下りでアタックを成功させ、栄冠に輝いたストゥイヴェンは体調不良のため欠場。「ゼッケン1番をつけて走りたかったが、パリ〜ニースで悪い病気を拾ったみたいだ。この悔しさは石畳クラシックで晴らしたい」とコメントするストゥイヴェンに代わり、チームは急遽マッズ・ピーダスン(デンマーク)を招聘してチーム2連覇に臨むことに。
出走した2/3の選手が途中棄権したパリ〜ニース(2.UWT)など体調を崩す選手が続出するロードレース界で、2019年優勝者のジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップ・アルファヴィニル)も気管支炎と発熱のため出場を辞退。そんな中、直前のミラノ〜トリノ(1.Pro)を制した2009年覇者マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)の出場が注目されたが、チームは今季6勝と波に乗るファビオ・ヤコブセン(オランダ)をエースに据えた。
数年に渡ってミラノ〜サンレモを最大の目標と掲げ、昨年2位と雪辱に燃えるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)も胃腸炎で無念の欠場。また同じスプリンターのサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)や2015年覇者ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チームDSM)もチームから体調不良によるキャンセルが発表されるなど、負の連鎖はチームを越えて続いている。
優勝候補筆頭はストラーデビアンケで50kmの独走勝利を掴んだタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)だろう。「ティレーノ~アドリアティコの寒さからか、鼻が詰まっていて100%ではない」というポガチャルだが、アラフィリップがいない中、チプレッサかポッジオでアタックする姿が見られるはず。
その対抗となるのは、登坂力はもちろんスプリント力でポガチャルを上回る2020年覇者ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。「より厳しい展開になれば、それだけ僕たちが有利になる」と言うように、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)やクリストフ・ラポルト(フランス)らと共にスプリンターたちを振り落とすハイペース戦法に持ち込む可能性は高い。
直前に発表されたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)の出場がどうレースに影響を及ぼすか。背中の怪我の影響でこれがシーズンインとなるファンデルプール。スペインで長期に渡る合宿から当初は4月のロンド・ファン・フラーンデレン(1.UWT)が実戦復帰の場となるはずが、予定を前倒しして3度目のラ・プリマヴェーラに挑む。
チーム力ではイネオス・グレナディアーズが頭一つ抜けている。トーマス・ピドコック(イギリス)と2017年に劇的なスプリント勝利を決めたミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)が中心となるものの、前評判ではフィリッポ・ガンナ(イタリア)を優勝候補に挙げる声も多い。昨年はアシストに徹した現TT世界王者は「スプリント力も登坂力のない僕はファビアン(カンチェラーラ)スタイルで勝利を狙う」と意気込み、集団スプリントになればエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)が、そしてイーサン・ヘイター(イギリス)もダークホースに挙げれる。
その他にもモニュメント全制覇がかかる現役ラストイヤーのフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)や、いまだ調子の上がらないペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)、ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)たちも忘れてはならない。
そんな中でも注目したいのがアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)と共に出場するビニヤム・ギルマイ(エリトリア)だ。ビッグレースで結果のない弱冠21歳の若手スプリンターだが、抜群の登坂力で最後まで集団に残ることができれば、ユアンのいない集団スプリントで勝機はあるはずだ。日本からは新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が2年連続でメンバー入りを果たし、マテイ・モホリッチ(スロベニア)とフィル・バウハウス(ドイツ)を支える。
ちなみに今年も男子レースのみ行われるミラノ〜サンレモだが、2023年は女子レースが復活する噂も。かつて1999年〜2005年の期間に開催されており、昨年初開催されたパリ〜ルベ、今年初回大会が行われるツール・ド・フランスに続いて女子レースの実施に期待がかかる。
text:Sotaro.Arakawa
シーズン最初の「モニュメント(五大クラシック:サンレモ、ロンド、ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)」が、イタリア北部を走るミラノ〜サンレモ(UCIワールドツアー)。初開催は1907年まで遡る歴史深いワンデーレースは、イタリアに春の訪れを告げる「ラ・プリマヴェーラ(春)」の別称で愛されてきた。
コースはレース名の通りミラノからサンレモまで。正真正銘ミラノの中心地をスタートし、リグーリア海岸のサンレモまで約7時間かけて走りきる。その距離は現存するロードレースで最長の293km。これにアクチュアルスタートまでのパレード区間9.8kmが加わるため、選手たちは300kmを越える距離を走ることになる。
内陸部の大都市ミラノをスタート後、ロンバルディア平原を突っ切る前半部はひたすら平坦。広大な平原に別れを告げてトゥルキーノ峠(標高532m)を越えるとレースはいよいよ後半戦に入り、リグーリア海沿岸をひたすらサンレモまで突き進んでいく。
レースが慌ただしさを増すのが、残り60kmを切ってから登場するトレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタに差し掛かってから。さらにフィニッシュ27km手前からチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)とポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)を連続してクリアする。
ミラノ〜サンレモを「フィニッシュするのは容易いが、優勝するのは最も難しいレース」と言わしめるのが、このチプレッサとポッジオの存在だ。いずれも勾配や難易度はそれほど高くないものの、アタッカーによる攻撃と、食らいついてゴール勝負に持ち込みたいスプリンターチームが必死の追走を繰り広げる。
ポッジオ頂上から3.2kmのテクニカルなダウンヒルは、昨年ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)が独走に持ち込んだ場所。そしてサンレモの目抜き通りに引かれたフィニッシュラインまでの2.2km平坦で飛び出す選手が現れるか。はたまた集団スプリントになだれ込むのか。
アタッカーによる逃げ切りか、スプリンターによる集団バトルか
昨年ポッジオの下りでアタックを成功させ、栄冠に輝いたストゥイヴェンは体調不良のため欠場。「ゼッケン1番をつけて走りたかったが、パリ〜ニースで悪い病気を拾ったみたいだ。この悔しさは石畳クラシックで晴らしたい」とコメントするストゥイヴェンに代わり、チームは急遽マッズ・ピーダスン(デンマーク)を招聘してチーム2連覇に臨むことに。
出走した2/3の選手が途中棄権したパリ〜ニース(2.UWT)など体調を崩す選手が続出するロードレース界で、2019年優勝者のジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップ・アルファヴィニル)も気管支炎と発熱のため出場を辞退。そんな中、直前のミラノ〜トリノ(1.Pro)を制した2009年覇者マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)の出場が注目されたが、チームは今季6勝と波に乗るファビオ・ヤコブセン(オランダ)をエースに据えた。
数年に渡ってミラノ〜サンレモを最大の目標と掲げ、昨年2位と雪辱に燃えるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)も胃腸炎で無念の欠場。また同じスプリンターのサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)や2015年覇者ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チームDSM)もチームから体調不良によるキャンセルが発表されるなど、負の連鎖はチームを越えて続いている。
優勝候補筆頭はストラーデビアンケで50kmの独走勝利を掴んだタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)だろう。「ティレーノ~アドリアティコの寒さからか、鼻が詰まっていて100%ではない」というポガチャルだが、アラフィリップがいない中、チプレッサかポッジオでアタックする姿が見られるはず。
その対抗となるのは、登坂力はもちろんスプリント力でポガチャルを上回る2020年覇者ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。「より厳しい展開になれば、それだけ僕たちが有利になる」と言うように、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)やクリストフ・ラポルト(フランス)らと共にスプリンターたちを振り落とすハイペース戦法に持ち込む可能性は高い。
直前に発表されたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)の出場がどうレースに影響を及ぼすか。背中の怪我の影響でこれがシーズンインとなるファンデルプール。スペインで長期に渡る合宿から当初は4月のロンド・ファン・フラーンデレン(1.UWT)が実戦復帰の場となるはずが、予定を前倒しして3度目のラ・プリマヴェーラに挑む。
チーム力ではイネオス・グレナディアーズが頭一つ抜けている。トーマス・ピドコック(イギリス)と2017年に劇的なスプリント勝利を決めたミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)が中心となるものの、前評判ではフィリッポ・ガンナ(イタリア)を優勝候補に挙げる声も多い。昨年はアシストに徹した現TT世界王者は「スプリント力も登坂力のない僕はファビアン(カンチェラーラ)スタイルで勝利を狙う」と意気込み、集団スプリントになればエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)が、そしてイーサン・ヘイター(イギリス)もダークホースに挙げれる。
その他にもモニュメント全制覇がかかる現役ラストイヤーのフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)や、いまだ調子の上がらないペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)、ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)たちも忘れてはならない。
そんな中でも注目したいのがアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)と共に出場するビニヤム・ギルマイ(エリトリア)だ。ビッグレースで結果のない弱冠21歳の若手スプリンターだが、抜群の登坂力で最後まで集団に残ることができれば、ユアンのいない集団スプリントで勝機はあるはずだ。日本からは新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が2年連続でメンバー入りを果たし、マテイ・モホリッチ(スロベニア)とフィル・バウハウス(ドイツ)を支える。
ちなみに今年も男子レースのみ行われるミラノ〜サンレモだが、2023年は女子レースが復活する噂も。かつて1999年〜2005年の期間に開催されており、昨年初開催されたパリ〜ルベ、今年初回大会が行われるツール・ド・フランスに続いて女子レースの実施に期待がかかる。
text:Sotaro.Arakawa
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