2019/05/25(土) - 16:00
逃げ切ったザカリン、タイムを稼いだモビスター、牽制し合うニバリとログリッチェ、マリアローザを守ったポランツェ、表情のないグルペット。ジロ初登場のチェレソーレ・レアーレで繰り広げられた大会最初の山頂フィニッシュを振り返ります。
標高2,247mのフィニッシュ地点チェレソーレ・レアーレにはまだ雪が残っていた。一帯は「大いなる楽園」を意味するグランパラディーゾ国立公園に指定されたヴァッレ・ダオスタ州とピエモンテ州をまたぐ山岳地帯で、その最高峰は100%イタリア国内にある山として最も高いグランパラディーゾ(標高4,061m)。いわゆるヨーロッパアルプスの西南端に位置するグライエアルプス山脈(モンブランもこの一部)に含まれる。
たっぷりと雪の残る5月は、1951年に完成したセッル湖のダムの堤体下にフィニッシュ地点を設置するのが精一杯だったが、夏場はそこからさらに標高を上げ、標高2,612mのコッレ・デル・ニヴォレ(ニヴォレ峠)まで登ることが可能。アルプスらしいつづら折れの峠はピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ州を繋いでいる。
美しいスイッチバックと山岳風景、青い水をたたえた湖が織りなす風景は素晴らしく、コッレ・デル・ニヴォレはサイクリスト憧れの地となっているが、ジロに登場するのはこれが初めて。国立公園に指定されているだけに、自然保全のためにジロが足を踏み入れるのには敷居が高かった。かれこれ30年以上ジロを見ているベテランのイタリア人フォトグラファーも「ここに来るのは初めて」というほど。沿道の斜面に目を凝らすと、立派な角を持つ「スタンベッコ」と呼ばれる野生のアルプスアイベックス(見かけたが撮り損ねた)が草を食んでいた。野生動物への影響や、雪崩防止のために中継ヘリの飛行高度も制限されたらしい。
ジロ初登場だけに、様々な点で運営は手こずっていた。スタート地点から同時に出発したチームバスや大会関係車両が一斉にフィニッシュに向かう細い峠道に詰めかけたため渋滞が発生し、残り20km地点のタイトなスイッチバックで立ち往生するチームバスが発生。先頭で登りに差し掛かったEFエデュケーションファーストのチームバスはかろうじてスイッチバックをクリアしたが、あまりにも切り返しに時間がかかるということで、他の21チームのバスは当初予定されていた残り10km地点の駐車場までアクセスできず、残り24km地点の臨時駐車場に駐車することに(その時点でレースは残り80km)。チームバスがスイッチバックで立ち往生した場合に備えて、主催者は1級山岳チェレソーレ・レアーレの麓にフィニッシュを移動するBプランも用意していたようだ。巨大な大会でありながら、小回りのきく運営にはいつも驚かされる。
壮大な山岳風景が広がる標高2,247mのフィニッシュ付近まで朝から登って待ち続けたサイクリストたちは、驚くほどあっさりと、まだレースが終わっていないのに下山を開始する。天気が下り坂だったこともあり、先頭の20名ほどが通過すると、まだ登ってくる選手たちがいるというのに構わず下山を開始。前述の通りフィニッシュ後の選手たちは残り24km地点のチームバス駐車場まで自走で下山するため、当然混沌としたものとなる。口にくわえたホイッスルを鳴らして選手たちは下っていくが、それでもあわや接触、転倒というシーンが実際に見られた。これは完全に規制されたツール・ド・フランスでは起こらないこと。選手との距離が近いのがジロの良さではあるのだけど、ちょっと近すぎる。
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)とプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)が互いを激しくマークする間に、ライバルたちが着々とタイムを稼いでいる。2日連続のアタックでミケル・ランダ(スペイン、モビスター)はついに総合トップ10入りし、さらにチームメイトのリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)も終盤のアタックで「二強」に1分19秒差をつけることに成功している。単純な登坂力で比較するとカラパスが現在最も登れている選手であると言われている。
山岳ステージに入ってからずっとニバリはログリッチェの消極的な走りを批判している。総合リードを得ていることやアシスト陣が手薄なことが影響し、ログリッチェはニバリに追走を任せるシーンが多い。「もうたくさんだ。ジロで勝ちたいのなら自分から動くべきだ」と、自ら動こうとしないログリッチェに苛立つニバリ。「確かに彼は総合リードを得ているけど、こんな走りを続けている限りジロでは勝てない。そして自分も勝てない」。
それに対してログリッチェは「最も重要なのはヴェローナでマリアローザを着ること」と一言だけ語って下山した。ログリッチェとニバリの戦いはレース外でも繰り広げられている。そして「二強」のライバル関係をうまく利用して、そこに割って入ろうとするアウトサイダーたちのモチベーションは上がっている印象だ。
第13ステージの獲得標高差は4,800m。完走を目指すグルペットにとっては厳しいステージが続く。初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が「グルペットの選手たちは時間を計算しながら走っていた」という通り、タイムアウトまで10分以上の余裕を持ってこの日最も大きな集団がフィニッシュした。
フィニッシュ地点にやってきた選手たちに完走の達成感などなく、「明日はもっときついのか」という悲壮に満ちた表情だった。最後に、逃げ集団とメイン集団、グルペットのラップタイムを比較しておきます。
1級山岳リース峠登坂タイム
逃げ集団:37分47秒
メイン集団:40分42秒
グルペット:43分27秒
1級山岳リース峠頂上から2級山岳麓まで
逃げ集団:1時間27分09秒
メイン集団:1時間26分33秒
グルペット:1時間29分19秒
2級山岳ピアン・デル・ルーポ登坂タイム
逃げ集団:41分35秒
メイン集団:40分41秒
グルペット:54分00秒
2級山岳ピアン・デル・ルーポ下り区間
逃げ集団:11分17秒
メイン集団:11分46秒
グルペット:12分11秒
text&photo:Kei Tsuji in Ceresole Reale, Italy
標高2,247mのフィニッシュ地点チェレソーレ・レアーレにはまだ雪が残っていた。一帯は「大いなる楽園」を意味するグランパラディーゾ国立公園に指定されたヴァッレ・ダオスタ州とピエモンテ州をまたぐ山岳地帯で、その最高峰は100%イタリア国内にある山として最も高いグランパラディーゾ(標高4,061m)。いわゆるヨーロッパアルプスの西南端に位置するグライエアルプス山脈(モンブランもこの一部)に含まれる。
たっぷりと雪の残る5月は、1951年に完成したセッル湖のダムの堤体下にフィニッシュ地点を設置するのが精一杯だったが、夏場はそこからさらに標高を上げ、標高2,612mのコッレ・デル・ニヴォレ(ニヴォレ峠)まで登ることが可能。アルプスらしいつづら折れの峠はピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ州を繋いでいる。
美しいスイッチバックと山岳風景、青い水をたたえた湖が織りなす風景は素晴らしく、コッレ・デル・ニヴォレはサイクリスト憧れの地となっているが、ジロに登場するのはこれが初めて。国立公園に指定されているだけに、自然保全のためにジロが足を踏み入れるのには敷居が高かった。かれこれ30年以上ジロを見ているベテランのイタリア人フォトグラファーも「ここに来るのは初めて」というほど。沿道の斜面に目を凝らすと、立派な角を持つ「スタンベッコ」と呼ばれる野生のアルプスアイベックス(見かけたが撮り損ねた)が草を食んでいた。野生動物への影響や、雪崩防止のために中継ヘリの飛行高度も制限されたらしい。
ジロ初登場だけに、様々な点で運営は手こずっていた。スタート地点から同時に出発したチームバスや大会関係車両が一斉にフィニッシュに向かう細い峠道に詰めかけたため渋滞が発生し、残り20km地点のタイトなスイッチバックで立ち往生するチームバスが発生。先頭で登りに差し掛かったEFエデュケーションファーストのチームバスはかろうじてスイッチバックをクリアしたが、あまりにも切り返しに時間がかかるということで、他の21チームのバスは当初予定されていた残り10km地点の駐車場までアクセスできず、残り24km地点の臨時駐車場に駐車することに(その時点でレースは残り80km)。チームバスがスイッチバックで立ち往生した場合に備えて、主催者は1級山岳チェレソーレ・レアーレの麓にフィニッシュを移動するBプランも用意していたようだ。巨大な大会でありながら、小回りのきく運営にはいつも驚かされる。
壮大な山岳風景が広がる標高2,247mのフィニッシュ付近まで朝から登って待ち続けたサイクリストたちは、驚くほどあっさりと、まだレースが終わっていないのに下山を開始する。天気が下り坂だったこともあり、先頭の20名ほどが通過すると、まだ登ってくる選手たちがいるというのに構わず下山を開始。前述の通りフィニッシュ後の選手たちは残り24km地点のチームバス駐車場まで自走で下山するため、当然混沌としたものとなる。口にくわえたホイッスルを鳴らして選手たちは下っていくが、それでもあわや接触、転倒というシーンが実際に見られた。これは完全に規制されたツール・ド・フランスでは起こらないこと。選手との距離が近いのがジロの良さではあるのだけど、ちょっと近すぎる。
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)とプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)が互いを激しくマークする間に、ライバルたちが着々とタイムを稼いでいる。2日連続のアタックでミケル・ランダ(スペイン、モビスター)はついに総合トップ10入りし、さらにチームメイトのリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)も終盤のアタックで「二強」に1分19秒差をつけることに成功している。単純な登坂力で比較するとカラパスが現在最も登れている選手であると言われている。
山岳ステージに入ってからずっとニバリはログリッチェの消極的な走りを批判している。総合リードを得ていることやアシスト陣が手薄なことが影響し、ログリッチェはニバリに追走を任せるシーンが多い。「もうたくさんだ。ジロで勝ちたいのなら自分から動くべきだ」と、自ら動こうとしないログリッチェに苛立つニバリ。「確かに彼は総合リードを得ているけど、こんな走りを続けている限りジロでは勝てない。そして自分も勝てない」。
それに対してログリッチェは「最も重要なのはヴェローナでマリアローザを着ること」と一言だけ語って下山した。ログリッチェとニバリの戦いはレース外でも繰り広げられている。そして「二強」のライバル関係をうまく利用して、そこに割って入ろうとするアウトサイダーたちのモチベーションは上がっている印象だ。
第13ステージの獲得標高差は4,800m。完走を目指すグルペットにとっては厳しいステージが続く。初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が「グルペットの選手たちは時間を計算しながら走っていた」という通り、タイムアウトまで10分以上の余裕を持ってこの日最も大きな集団がフィニッシュした。
フィニッシュ地点にやってきた選手たちに完走の達成感などなく、「明日はもっときついのか」という悲壮に満ちた表情だった。最後に、逃げ集団とメイン集団、グルペットのラップタイムを比較しておきます。
1級山岳リース峠登坂タイム
逃げ集団:37分47秒
メイン集団:40分42秒
グルペット:43分27秒
1級山岳リース峠頂上から2級山岳麓まで
逃げ集団:1時間27分09秒
メイン集団:1時間26分33秒
グルペット:1時間29分19秒
2級山岳ピアン・デル・ルーポ登坂タイム
逃げ集団:41分35秒
メイン集団:40分41秒
グルペット:54分00秒
2級山岳ピアン・デル・ルーポ下り区間
逃げ集団:11分17秒
メイン集団:11分46秒
グルペット:12分11秒
text&photo:Kei Tsuji in Ceresole Reale, Italy
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