2015/05/15(金) - 14:52
大会最初の山頂フィニッシュを終えて、平穏な雰囲気が戻ったジロ・デ・イタリア。アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)が落車して左肩を脱臼するという波乱が起こった1日を振り返ります。
アベトーネの闘いを終えた選手たちはすぐに下山し、山道を2時間弱走って第6ステージのスタート地点モンテカティーニ・テルメや近郊のルッカのホテルに散らばった。開幕前から繰り返し言及しているが、第98回大会のステージ間の移動距離は本当に短い。フィニッシュの街を翌日にスタートするパターンもある。数年前はフィニッシュ後やスタート前に100〜200km移動することもざらにあったのに。
前日までと比べるといスタート地点の雰囲気は穏やかになった。マリアローザ争いの行方にある程度の展望が見えたこともあり、張り詰めていた緊張感も少し緩んだように感じる。
通常スプリントポイントはレース中盤に設定されることが多いが、この日はスタートしてすぐ、14km地点で通過するアルトパッショに最初のスプリントポイントが置かれた。
アルトパッショは2005年にマリオ・チポッリーニ(イタリア)がキャリア最後の勝利を飾ったジロ・デッラ・プロヴィンチャ・ディ・ルッカ(UCI1.1)のフィニッシュ地点だ(学生だった自分が初めてイタリアレースを見た思い出の場所でもある)。
当時はティレーノ〜アドリアティコ直前のワンデーレースとして定着していたが、2006年を最後に同レースは中断。イタリアにはスポンサー不足で中止に追い込まれたそんな中規模レースがゴロゴロある。
ジロも決して景気が良いとは言えず、スポンサー集めに躍起になっている感が増している。その影響か、2015年はVIPやスポンサー、招待客の扱いが手厚くなり、メディアの扱いがぞんざいになった気がする。
チポッリーニと言えば、前日のフィニッシュ地点アベトーネで国営放送RAIのレース後番組に出演し、残り33km地点でバイクを交換したコンタドールに対して「バイクにモーターが入っているんじゃないかという悪いイメージがつく」と苦言を呈した。実際にUCIはこのジロでもバイクチェックを行っており、モーター疑惑が過去のものになったわけではない。
それに反論するように、コンタドールはレース後の記者会見で「モーターが1つ入っているんじゃないかと言われるけど、間違っている。実際は5つだ」とジョークを飛ばした。「もちろん冗談。バイクを交換する理由なんて山ほどある。モーター疑惑なんてサイエンスフィクションだ。バイク交換は悪いイメージではなく良いイメージを与えるはず。コースに合わせて乗るバイクを変えているだけのこと」と付け加えている。
話を戻して、14km地点のアルトパッショにスプリントポイントが設定されていることを受けて、マリアロッサを着るエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)は一人黙々とスタート前にローラー台でアップしていた。スタート直後に飛び出すエスケープ要員がアップする光景はよく見られるが、エーススプリンターがアップする光景はあまり見ない。
2人の逃げを見送った後、ヴィヴィアーニはスプリントポイントで集団先頭を取って3番手通過。さらに2つ目のスプリントポイント争いにも絡み、マリアロッサへの執着を見せる。しかしステージ7位に終わったため、情熱の赤ジャージはアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)の手に渡っている。
ここ数年で一気に増えたセルフィー(自分撮り)が選手に危険を及ぼす/及ぼしかけるシーンをよく見るようになった。セルフィーに限らず、スマートフォンの普及率の高さから必然的に撮影者がいたるところにいる。
フィニッシュの沿道には、シェア調査が簡単に出来るんじゃないかと思ってしまうほど各社のスマートフォンやタブレットがずらりと並ぶ。場合によってはセルフィースティックやアクションカメラを装着したモノポッドがコース上に伸びていたりする。個人所有のドローンはまだ見ない。
第6ステージで大落車の原因を作ったのは望遠レンズ付きのデジタル一眼レフカメラだった。映像で見る限り、問題となったカメラはレンズとセットで2kg以上ある。第2ステージの自転車乱入による落車に続き、観客との接触による酷い落車が今年のジロは続いている。2014年のステルヴィオの下りや2011年のクロスティスの下りなど、過去を振り返るとジロはレースの安全性を問われることが多い。
「落車を避けるには運が必要」とは2度のジロ・デ・イタリア総合優勝経験者のイヴァン・バッソ(イタリア、ティンコフ・サクソ)の言葉だ。「総合を狙う立場であれば、フィニッシュまで安全に走り抜けることが出来るように祈りながら、運を味方につけるしかない」。
大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「だからと言ってジロを観客から隔離して鳥かごの中で行なうつもりはない」と断言する。「1人の行ないが悪いからと言って、沿道に集まる何千もの観客に罪を着せることは間違っている。でも確かにここ数年でカメラや携帯電話を取り巻く環境は変わった。選手がどれだけリスクを負いながら走っているのか分かっていない観客が多い」。
ビッグスリーによる争いが鮮明になった翌日のマリアローザの落車。コンタドールは第7ステージのスタートに並ぶ予定。どうか並んで欲しい。しかし、7時間前後のレース時間が予想されている264kmというクラシックレースさながらの今大会最長コースレイアウトはコンタドールには酷だ。
そして選手やスタッフの悩みの種がもう一つ。週末にかけて天気は下り坂であり、第7ステージ終了後の夜には雨が降り始める予報が出ている。青い海と青い空のイメージが強かったジロ1週目の締めくくりは、黒い空と冷たい雨になるかもしれない。
text&photo:Kei Tsuji in Castiglione della Pescaia, Italy
アベトーネの闘いを終えた選手たちはすぐに下山し、山道を2時間弱走って第6ステージのスタート地点モンテカティーニ・テルメや近郊のルッカのホテルに散らばった。開幕前から繰り返し言及しているが、第98回大会のステージ間の移動距離は本当に短い。フィニッシュの街を翌日にスタートするパターンもある。数年前はフィニッシュ後やスタート前に100〜200km移動することもざらにあったのに。
前日までと比べるといスタート地点の雰囲気は穏やかになった。マリアローザ争いの行方にある程度の展望が見えたこともあり、張り詰めていた緊張感も少し緩んだように感じる。
通常スプリントポイントはレース中盤に設定されることが多いが、この日はスタートしてすぐ、14km地点で通過するアルトパッショに最初のスプリントポイントが置かれた。
アルトパッショは2005年にマリオ・チポッリーニ(イタリア)がキャリア最後の勝利を飾ったジロ・デッラ・プロヴィンチャ・ディ・ルッカ(UCI1.1)のフィニッシュ地点だ(学生だった自分が初めてイタリアレースを見た思い出の場所でもある)。
当時はティレーノ〜アドリアティコ直前のワンデーレースとして定着していたが、2006年を最後に同レースは中断。イタリアにはスポンサー不足で中止に追い込まれたそんな中規模レースがゴロゴロある。
ジロも決して景気が良いとは言えず、スポンサー集めに躍起になっている感が増している。その影響か、2015年はVIPやスポンサー、招待客の扱いが手厚くなり、メディアの扱いがぞんざいになった気がする。
チポッリーニと言えば、前日のフィニッシュ地点アベトーネで国営放送RAIのレース後番組に出演し、残り33km地点でバイクを交換したコンタドールに対して「バイクにモーターが入っているんじゃないかという悪いイメージがつく」と苦言を呈した。実際にUCIはこのジロでもバイクチェックを行っており、モーター疑惑が過去のものになったわけではない。
それに反論するように、コンタドールはレース後の記者会見で「モーターが1つ入っているんじゃないかと言われるけど、間違っている。実際は5つだ」とジョークを飛ばした。「もちろん冗談。バイクを交換する理由なんて山ほどある。モーター疑惑なんてサイエンスフィクションだ。バイク交換は悪いイメージではなく良いイメージを与えるはず。コースに合わせて乗るバイクを変えているだけのこと」と付け加えている。
話を戻して、14km地点のアルトパッショにスプリントポイントが設定されていることを受けて、マリアロッサを着るエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)は一人黙々とスタート前にローラー台でアップしていた。スタート直後に飛び出すエスケープ要員がアップする光景はよく見られるが、エーススプリンターがアップする光景はあまり見ない。
2人の逃げを見送った後、ヴィヴィアーニはスプリントポイントで集団先頭を取って3番手通過。さらに2つ目のスプリントポイント争いにも絡み、マリアロッサへの執着を見せる。しかしステージ7位に終わったため、情熱の赤ジャージはアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)の手に渡っている。
ここ数年で一気に増えたセルフィー(自分撮り)が選手に危険を及ぼす/及ぼしかけるシーンをよく見るようになった。セルフィーに限らず、スマートフォンの普及率の高さから必然的に撮影者がいたるところにいる。
フィニッシュの沿道には、シェア調査が簡単に出来るんじゃないかと思ってしまうほど各社のスマートフォンやタブレットがずらりと並ぶ。場合によってはセルフィースティックやアクションカメラを装着したモノポッドがコース上に伸びていたりする。個人所有のドローンはまだ見ない。
第6ステージで大落車の原因を作ったのは望遠レンズ付きのデジタル一眼レフカメラだった。映像で見る限り、問題となったカメラはレンズとセットで2kg以上ある。第2ステージの自転車乱入による落車に続き、観客との接触による酷い落車が今年のジロは続いている。2014年のステルヴィオの下りや2011年のクロスティスの下りなど、過去を振り返るとジロはレースの安全性を問われることが多い。
「落車を避けるには運が必要」とは2度のジロ・デ・イタリア総合優勝経験者のイヴァン・バッソ(イタリア、ティンコフ・サクソ)の言葉だ。「総合を狙う立場であれば、フィニッシュまで安全に走り抜けることが出来るように祈りながら、運を味方につけるしかない」。
大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「だからと言ってジロを観客から隔離して鳥かごの中で行なうつもりはない」と断言する。「1人の行ないが悪いからと言って、沿道に集まる何千もの観客に罪を着せることは間違っている。でも確かにここ数年でカメラや携帯電話を取り巻く環境は変わった。選手がどれだけリスクを負いながら走っているのか分かっていない観客が多い」。
ビッグスリーによる争いが鮮明になった翌日のマリアローザの落車。コンタドールは第7ステージのスタートに並ぶ予定。どうか並んで欲しい。しかし、7時間前後のレース時間が予想されている264kmというクラシックレースさながらの今大会最長コースレイアウトはコンタドールには酷だ。
そして選手やスタッフの悩みの種がもう一つ。週末にかけて天気は下り坂であり、第7ステージ終了後の夜には雨が降り始める予報が出ている。青い海と青い空のイメージが強かったジロ1週目の締めくくりは、黒い空と冷たい雨になるかもしれない。
text&photo:Kei Tsuji in Castiglione della Pescaia, Italy
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