超級山岳トゥールマレーが登場したピレネー2連戦の初日で、アダム・イェーツによる前待ち作戦を敢行したUAEチームエミレーツが制圧。マイヨジョーヌのタデイ・ポガチャル(スロベニア)が切れ味鋭いアタックを決め、区間2勝目と共に総合リード拡大に成功した。



7月13日(土)第14ステージ
ポー〜サン・ラリー・スーランプラ・ダデ 151.9km(山岳/山頂フィニッシュ)


ピレネー2連戦の初日に臨むタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:A.S.O.

第14ステージ ポー〜サン・ラリー・スーランプラ・ダデ image:A.S.O.

マイヨヴェールのギルマイと繰り下げでマイヨアポワを着るアブラハムセン photo:A.S.O.
リラックスした表情で山岳ステージの臨むアルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット・デスティニー) photo:CorVos


タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)の言葉を借りるのならば、「真っ当な本格山岳ステージ」がツール・ド・フランス第14ステージにしてようやくやってきた。ピレネー山脈を舞台にする山岳2連戦の初日は、2級山岳を2つの超級山岳で挟んだ151.9kmの山頂フィニッシュ。中間スプリント(残り81.7km)までは緩やかな登り基調の平坦路で、選手たちはまずツール登場85回目の超級山岳トゥールマレー(距離19km/平均7.4%)を駆け上がる。

標高2,115mを先頭通過した選手には「ジャック・ゴデ記念賞」が贈られ、その後は16.7kmのダウンヒル。続いて2級山岳ウルケット・ダンシザンを越え、この日を締めくくるのは超級山岳プラ・ダデ(距離10.6km/平均7.9%)。登り始め3kmに渡って10%超の勾配が続き、フィニッシュに向かって緩やかになるのが特徴だ。

前日のフィニッシュ地点であり、この日の出発地点ポーに集ったのは157名の選手たち。その中に体調不良を訴えたギヨーム・ボワヴァン(カナダ、イスラエル・プレミアテック)の姿はなく、またトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)は選手間で蔓延する新型コロナウイルスに感染したため棄権。ピドコックはこの後、ディフェンディング王者として臨むパリ五輪のMTBに向けて調整を進めることになる。

スタートから約50km進み、ようやくマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)ら8名が逃げ集団を形成する photo:CorVos

現地時間午後1時26分にアクチュアルスタートが切られ、直後から”逃げ屋”のヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー)やマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が飛び出す。またウノエックス・モビリティやEFエデュケーション・イージーポストも積極的に逃げを目指し、約50kmに渡るアタックと吸収を経て8名の逃げ集団が形成された。

ファンデルプールを中心とする逃げグループには、前日に敢闘賞を獲得したマグナス・コルト(デンマーク、ウノエックス・モビリティ)やアルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット・デスティニー)が入り、メイン集団から飛び出したベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)ら15名が追いかける。その追走集団には残り81.7km地点にある中間スプリントを目指した、マイヨヴェール・ランキングのトップ(346pts)ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ)と2位(271pts)ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)も入った。

8名の先頭と15名の追走、そしてプロトンという構図は超級山岳トゥールマレーの麓に設定された中間スプリントまで変わらず、ドゥリーを退けたブライアン・コカール(フランス、コフィディス)が先頭通過。コカールはマイヨヴェール・ランキングで3位に上がり、後続集団ではギルマイがフィリプセンとのスプリントを制して1ポイント差拡大に成功した。

プロトンは長時間に渡り、ニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ)が牽引した photo:A.S.O.

そして選手たちはこの日1つ目の山岳である超級トゥールマレー(距離19km/平均7.4%)に突入する。先頭集団にはスプリンターを除く追走集団が追いつき、頂上まで1kmを切った残り63km地点でダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)がアタック。今大会は早々と総合争いから脱落してステージ優勝を目指すゴデュには、オイエル・ラスカノ(スペイン、モビスター)が反応し、突き放した。

ラスカノは標高2,115mのトゥールマレー頂上を先頭通過して「ジャック・ゴデ記念賞」を獲得。一方のプロトンは登りでニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ)が牽引し、4分2秒遅れで頂上を通過。下りでラスカノにファンデルプールたちが追いつき、ヒーリーやミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)、アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・カザクスタン)など強力クライマーのいる逃げ集団が2級山岳ウルケット・ダンシザン(距離8.2km/平均5.1%)に入った。

しかしこの時点でメイン集団は3分まで差を縮め、驚異的な長時間牽引を見せたポリッツがようやくここで仕事を終える。2級の頂上はゴデュが獲り、超級山岳プラ・ダデ(距離10.6km/平均7.9%)に入るとすぐにゴデュとヒーリーが加速。そしてフィニッシュまで9.4km地点でヒーリーがゴデュを引き離し、単独先頭に立った。

最終超級山岳プラ・ダデ(距離10.6km/平均7.9%)に入った選手たち photo:CorVos

最終山岳で単独先頭に立ったベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:A.S.O.

ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)が集団を牽引し、人数を絞っていく photo:CorVos

一方、マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ)からパヴェル・シヴァコフ(ロシア)に牽引が代わったメイン集団は、人数を減らしながら1分12秒差で追いかける。残り8kmからは総合4位のジョアン・アルメイダ(ポルトガル)にペースメイクがバトンダッチされ、ポガチャルは集団8番手でライバルたちの様子を窺う。そして直前にポガチャルと言葉を交わしたアダム・イェーツ(イギリス)が、残り7km地点で集団を飛び出した。

残り7km地点でプロトンを飛び出したアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

残り4.6km地点でアタックしたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:A.S.O.

前日に逃げに乗り、総合でも7位(6分59秒遅れ)につけるイェーツは軽快に飛ばし、ヒーリーを視界に捉える。そしてフィニッシュまで残り4.6km地点でポガチャルがアタック。シッティングのままハイケイデンスで回すマイヨジョーヌの速度にはヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)はついていけず、マイペース走法で追いついたレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)と共に追いかける。

ポガチャルはあっという間にヒーリーを捉えたイェーツに追いつき、イェーツがハイペースでポガチャルの前を牽く。前待ち作戦がハマったポガチャルは残り4kmで単独先頭に立ち、ヴィンゲゴー&エヴェネプールとの差を拡げていく。そして大歓声を浴びながら登るポガチャルのスピードは最後まで落ちることなく、超級山岳プラ・ダデを制覇。雄叫びを上げ、区間2勝目を掴み取った。

圧巻の登坂スピードで区間2勝目を手に入れたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

39秒遅れの区間2位でフィニッシュしたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

エヴェネプールを引き離したヴィンゲゴーは39秒遅れの区間2位でフィニッシュし、3位は1分10秒遅れのエヴェネプール。その結果ヴィンゲゴーはエヴェネプールを抜き総合2位に順位を上げた。

「アタックしたのは作戦ではなく本能に従っただけ。スプリントでのステージ勝利を狙っていたのだが、アタックしたアダム(イェーツ)に追いつけば独走勝利できると思った。子どもの頃マーク・カヴェンディッシュが勝利を重ねる姿を見て、”彼は違う星から来た選手だ”と手の届かない存在だと思っていた。だが、夢は追いかければこうやって掴めるんだ」と、攻めの走りでマイヨジョーヌを守ったポガチャルは語った。

翌日の第15ステージはフランス革命記念日(7月14日)に行われるピレネー決戦2日目。パレード走行を合わせると200kmを超える長丁場を締めくくるのは、ラルプ・デュエズをも凌ぐピレネーの名峰プラトー・ド・ベイユ(距離15.8km/平均7.9%)だ。

勝利と共に総合リードを拡大させたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

ツール・ド・フランス2024第14ステージ
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 4:01:51
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) +0:39
3位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +1:10
4位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +1:19
5位 ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) +1:23
6位 サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス)
7位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)
8位 フェリックス・ガル(オーストリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) +1:23
9位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +1:29
10位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 56:42:39
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) +1:57
3位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +2:22
4位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +6:01
5位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +6:09
6位 ミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ) +7:17
7位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) +8:32
8位 ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) +9:09
9位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック) +9:33
10位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +10:35
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) 353pts
2位 ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) 277pts
3位 ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) 147pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 56pts
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) 43pts
3位 ヨナス・アブラハムセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) 36pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) 56:45:01
2位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +3:47
3位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +8:13
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 170:20:36
2位 スーダル・クイックステップ +31:41
3位 ヴィスマ・リースアバイク +32:08
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.

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